大手橋 (木曽川)

大手橋（おおてばし）

長野県木曽郡木曽町に位置する大手橋は、木曽川に架かる全長34.3メートルの橋であり、木曽町道の一部として人々の往来を支えています。この橋は、単なる交通路としての役割を超え、土木技術の歴史において特筆すべき存在です。なぜなら、世界で初めて鉄筋コンクリートを用いて建設されたローゼ橋として、その名を刻んでいるからです。また、これは日本国内においても初めてローゼ橋形式が採用された例でもあります。

橋の諸元

現在の大手橋は、鉄筋コンクリート製の単径間ローゼ橋という形式を採用しています。橋全体の長さは34.3メートル、主たる支間長は34.0メートルで、幅員は5.5メートルです。この橋の設計は、当時革新的な技術者として知られた中島武氏が手掛けました。

歴史をたどる

この地には、江戸時代に木曽代官所が設置された頃、既に何らかの橋が架けられていたと考えられています。しかし、初代の橋に関する詳細は明らかになっていません。記録に残るものとしては、元禄5年（1703年）や宝永3年（1706年）など、江戸時代を通じてたびたび架け替えが行われていたことが分かっています。

時代が明治に移ってからも、橋の架け替えは続き、明治19年（1886年）や大正2年（1913年）にも新しい橋が建設されました。そして、現在私たちが見る大手橋が誕生したのは、昭和初期の1936年（昭和11年）のことです。

当時の架橋にあたっては、いくつかの困難な条件がありました。木曽川のこの付近は川幅がおよそ30メートルと比較的に狭いものの、川の中に橋脚を設けることが地形上難しい状況でした。このような場合、一般的には長径間を支える鋼トラス橋が用いられましたが、当時は日中戦争が始まっており、鋼材の入手が非常に困難になっていました。そこで、設計者の中島武氏は、鋼材に代わる素材として鉄筋コンクリートに注目し、これをアーチ部材として用いるローゼ橋という当時としては極めて斬新な構造形式を採用することを決断しました。この英断により、1936年に世界初の鉄筋コンクリートローゼ橋が完成し、翌1937年（昭和12年）1月10日に無事開通を迎えました。

その後の改修と評価

開通後、交通量の増加や車両の大型化に対応するため、大手橋は改修を受けています。1970年（昭和45年）には、橋の床版が補強され、それまでの6トンという重量制限が14トンに引き上げられました。同時に、安全性の向上のため、両側に歩道橋が新設されました。さらに、2006年度（平成18年度）にも、橋の維持管理と長寿命化のための補修工事が実施されています。

大手橋が持つ土木史における革新性と、当時の困難な状況下での技術的な挑戦は高く評価されています。2002年度（平成14年度）には、土木学会によって選奨土木遺産に認定されました。この認定は、大手橋単独ではなく、同じく中島武氏が設計した長野県内の他の4つの鉄筋コンクリートローゼ橋群（姫川橋、親沢橋、昭和橋、栄橋）と共に、「中島武設計のRCローゼ桁群」として一括して行われたものです。これは、中島武氏が戦時下の資材不足の中で鉄筋コンクリートによるローゼ橋という画期的な技術を開発・実現し、日本の橋梁技術の発展に貢献した功績と、これらの橋が持つ歴史的・技術的な価値を顕彰するものです。

現在も、大手橋は木曽川を静かに跨ぎ、地域の交通を支えるとともに、土木技術史における重要なマイルストーンとして、その存在感を放っています。江戸時代から続くこの地の交通の歴史と、昭和初期の革新的な技術者の情熱を今に伝える貴重な構造物と言えるでしょう。

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