大日房能忍

大日房 能忍（だいにちぼう のうにん）

大日房能忍は、平安時代末から鎌倉時代初期にかけて、日本において重要な役割を果たした禅宗の僧侶です。出生年や没年は不詳ですが、彼は福岡県福岡市にある筑前博多の出身とされています。能忍は日本達磨宗の創始者として知られていますが、その実績や教えについての記録は非常に限られています。さらに、彼の出自にもいくつかの異説が存在し、その一つには平家の家人である藤原景綱の子であるという説もあります。彼の死後には「深法禅師」という名が与えられたという話も伝わっています。

生涯の業績

能忍は当初、比叡山で学問に励んでいましたが、次第に禅に興味を持ち、最終的には摂津水田、現在の大阪府大阪市に三宝寺を建立します。ここを禅道場として開いた能忍のもとには、天台宗の主流に対抗する多くの学僧が集まりました。このことで、彼の教えは「達磨宗」と称されるようになりました。また、三宝寺は本来の禅宗に加え、密教の教えも修める独自の寺院性を持っていたと言われています。興味深いことに、後の研究により、「日本達磨宗」という名称は近世になってから用いられたものであり、能忍の時代には使われていなかったということも指摘されています。

能忍の禅は独自の修行に基づいており、特定の師僧から法を受け継いでいませんでした。このような独立性は、禅宗においては極めて異例なものであり、彼自身はしばしば偽りの禅師として中傷を受けることもありました。そのため、文治5年（1189年）には自らの教えの正当性を確立するために、弟子の練中と勝弁を宋へ派遣し、阿育王寺の拙庵徳光に自らの修行が正しいかどうかを問いただしました。結果として、徳光からの印可を受けることで、能忍の教えは臨済宗大慧派に連なる正当なものであると認められ、その名声は高まりました。

しかし、能忍の影響力が大きくなるにつれ、批判も寄せられるようになります。特に、栄西は『興禅護国論』の中で能忍を批判し、日蓮も彼を「悪鬼」と呼ぶなど、当時の能忍の評価には賛否がありました。これは、彼の影響力の大きさを示すものであるとも考えられています。

建久3年（1192年）には伊勢鈴鹿に江西寺を建立し、2年後の1194年には栄西と共に京で禅宗を広める活動を始めましたが、延暦寺と興福寺の圧力により朝廷から禅宗の停止が宣言されます。この後、奈良県の多武峰にある妙楽寺に拠点を移し、再び活動を続けました。しかし残念ながら、同年に甥である藤原景清（平景清）により暗殺されるという悲劇に見舞われました。その死因については様々な説が存在し、最近の研究では病死や事故死とも考えられています。

能忍の禅風は南宗頓悟のものであったと伝えられますが、残念ながら彼の著作や記録はほとんど残されていません。少なくとも『潙山警策』に対する注釈書を書いたという説があるものの、その真偽ははっきりしていません。もしこれが事実であれば、彼は日本で最初に禅籍を開版した僧とされることになります。

没後の影響

能忍の死後、彼の教えは弟子の覚晏によって引き継がれました。彼らは能忍の教えを守り続けましたが、安貞2年（1228年）、興福寺の衆徒による焼き討ちにより多武峰を追われ、越前一乗谷の波著寺に避難を余儀なくされました。仁治2年（1241年）には、覚晏の弟子の懐鑑を含む多くの弟子が曹洞宗の開祖である道元のもとに改宗し、結果として宗の勢力は著しく衰えました。

これまでの通説では、懐鑑らの改宗により能忍の法系は断絶したとされていますが、近年の調査によって、三宝寺に法灯が維持されていた記録が発見されており、少なくとも文明年間までその流れは続いていた可能性が示されています。通常、覚晏が二祖と見なされていますが、彼は傍系であり、三宝寺に残った法系が本筋であるとする立場も存在しています。

能忍という人物は、日本の禅宗の歴史の中で未だに多くの謎を抱えていますが、その影響は今なお続いており、彼の教えや活動は途絶えることなく語り継がれています。

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