大橋由紀夫

大橋 由紀夫

大橋 由紀夫（おおはし ゆきお、1955年3月 - 2019年10月）は、日本の著名な科学史家であり、特にインドおよび中国における天文学史と数学史の研究において、その専門性を発揮しました。

1955年3月、東京都渋谷区に生まれた大橋は、埼玉大学物理学科で学び、1979年に卒業しました。さらに学問を深めるため、同大学の大学院修士課程（中国文化専攻）に進み、1981年に修了しています。学部生時代、東京天文台長を務めた天文学史家の広瀬秀雄氏の講義に強い感銘を受けたことが、後の彼の研究人生を決定づける契機となりました。この出会いをきっかけに、大橋は科学史、特に天文学史の分野で研究者となることを志しました。

東洋の科学、特にインドの学術に対する関心を深めた大橋は、1983年から1987年にかけてインドへ留学し、その地で研鑽を積みました。帰国後、一橋大学大学院の博士課程に進学・修了しましたが、博士号（Ph.D.）は1992年にインドのラクナウ大学より授与されました。この時の研究テーマは、インドの数理天文学史という専門性の高い分野に焦点を当てたものでした。

研究活動と並行して、大橋は教育にも力を注ぎました。一橋大学、東京工業大学、法政大学、明治大学といった複数の大学で、中国語、科学史、天文学史などの講義を担当し、後進の指導にあたりました。また、国際会議の記録集や名高い百科事典、国際的な学術誌に積極的に論文を発表しました。その数は英文論文が約40編、和文論文が約32編に及び、国内外でその業績が評価されました。特に、彼の論文や解説記事に添えられた手書きの図は、独特の味わいと高い表現力を持ち合わせ、多くの読者から好評を博しました。これは、単に情報を伝えるだけでなく、視覚的な魅力によって読者の理解を助け、研究への関心を高める彼の工夫であったと言えるでしょう。

学術界における貢献も大きく、東洋天文学史国際会議（International Conference on Oriental Astronomy）では組織委員を務め、また学術誌『数学史研究』の編集委員としても活動するなど、関連分野の発展のために尽力しました。

彼の代表的な著作や論文には以下のようなものがあります。

Encyclopaedia of the History of Science, Technology, and Medicine in Non-Western Cultures (H. Selin 編纂), Volume 1. Springer (2008年)に、「インドの天文観測装置」、「中国におけるインド系天文学」、「東南アジアの天文学」、「チベットの天文学」の項目を執筆。
大橋由紀夫、「インドの伝統天文学―特に観測天文学について」、『天文月報』、91巻（1998年）。
大橋由紀夫、「隋唐時代の補間法の算術的起源」、『科学史研究』、33巻（1994年）。
Ohashi, Y. (1994): Astronomical instruments in classical Siddhantas. Indian Journal of History of Science, 29(2), 155-313.
Ohashi, Y. (1997): Early history of the astrolabe in India. Indian Journal of History of Science, 32(3), 199-295.
Ohashi, Y. (2015): Astronomy of the Vedic age. In Ruggles, C.L.N. (ed.), Handbook of Archaeoastronomy and Ethnoastronomy. New York, Springer, 1949-1958.

大橋由紀夫は、東洋の科学史、特に天文学史と数学史の研究に生涯を捧げ、多くの業績を残しました。しかし、2019年10月、惜しくも肝臓疾患のため64歳でこの世を去りました。

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