大江志乃夫

大江志乃夫

大江志乃夫（おおえ しのぶ、1928年2月8日 - 2009年9月20日）は、日本の歴史学者、作家であり、茨城大学の名誉教授です。専門は日本近現代史で、文学博士（東京教育大学）の学位を有しています。

生涯

大分県大分市に生まれた大江は、陸軍軍人であった父の影響を受け、幼少期から軍事教育に触れました。大分県師範学校附属小学校、東京市立富久小学校、東京府立第四中学校を経て、熊本陸軍幼年学校に進学、その後、陸軍予科士官学校、陸軍航空士官学校へと進みました。しかし、終戦により士官学校は解散となり、復員を経験しました。

戦後、旧制第五高等学校、旧制名古屋大学経済学部を卒業、名古屋大学大学院経済学研究科を中退。四方博、塩沢君夫両教授のゼミに参加し、宮本憲一と親交を深めました。

1954年に広島大学政経学部助手として研究者の道を歩み始め、1960年に東京教育大学文学部助教授に就任。この頃から明治維新史研究の若手として頭角を現しました。1975年には東京教育大学で文学博士号を取得しています。学位論文は「国民教育と軍隊：日本軍国主義教育政策の成立と展開」でした。

東京教育大学の廃校に伴い、筑波大学への移籍を拒否し、1976年に茨城大学人文学部教授に就任。1985年には小説『凩の時』で大佛次郎賞を受賞しました。1993年に茨城大学を定年退官し、名誉教授となりました。2009年9月20日、急性肺炎により死去、享年81歳でした。教え子には、吉田裕（一橋大学名誉教授）などがいます。

研究

大江の研究は、日本近現代史を幅広くカバーし、特に以下のテーマに焦点を当てていました。

軍国主義教育: 博士論文のテーマである「国民教育と軍隊」は、日本の軍国主義教育政策の成立と展開を詳細に分析しています。
日露戦争: 『日露戦争の軍事史的研究』や『兵士たちの日露戦争』など、日露戦争に関する著作を多数発表し、軍事史的な側面だけでなく、兵士の視点や社会的な影響についても深く考察しました。
昭和史: 『昭和の歴史3 天皇の軍隊』や『御前会議 - 昭和天皇15回の聖断』など、昭和史における重要な出来事や人物について、独自の視点から分析しています。
植民地主義: 『日本植民地探訪』や『東アジア史としての日清戦争』など、日本の植民地主義について、その実態や影響を研究しました。

著作

大江は、学術的な著作のほか、小説や紀行文など、幅広いジャンルの著作を発表しました。主な著作は以下の通りです。

『明治国家の成立 - 天皇制成立史研究』（1959年）
『国民教育と軍隊 - 日本軍国主義教育政策の成立と展開』（1974年）
『日露戦争の軍事史的研究』（1976年）
『凩の時』（1985年）
『靖国神社』（1984年）
『日本の参謀本部』（1985年）
『張作霖爆殺 - 昭和天皇の統帥』（1989年）
『御前会議 - 昭和天皇15回の聖断』（1991年）
『東アジア史としての日清戦争』（1998年）
『バルチック艦隊 - 日本海海戦までの航跡』（1999年）

評価

大江志乃夫は、日本の近現代史研究において重要な業績を残した歴史学者です。その研究は、軍国主義教育や日露戦争、昭和史など、現代日本社会にも大きな影響を与えたテーマを扱い、深い洞察と分析に基づいています。また、小説家としても優れた才能を発揮し、歴史的な事実を基にした物語を通じて、多くの読者に歴史への関心を喚起しました。その功績は、歴史研究と文学の両分野において高く評価されています。

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