大津奉行

大津奉行と大津代官：近江国の統治と変遷

近江国大津（現在の滋賀県大津市）には、中世以降、地方行政を担う役職として「大津奉行」と「大津代官」が存在しました。両者の名称や役割は時代によって変化し、併置されていた時期もありました。本稿では、これらの役職の歴史と変遷について、詳細に解説します。

六角氏と大津奉行の創設

大津奉行の設置は、天文2年（1534年）、六角氏（氏綱あるいは定頼）によるものとされています。初代奉行には駒井清宗が任命されましたが、その詳細な経緯は不明です。清宗はその後、大津氏を名乗り、子孫が代々奉行職を世襲しました。これは、六角氏が近江国の支配を強化するために、大津という重要な拠点に独自の行政機関を設置したことを示しています。

織田信長の支配下と代官の設置

六角氏の滅亡後、織田信長は足利義昭の許可を得て大津に代官を派遣し、この地を自らの支配下に置きました。これは、信長が近江国を掌握し、琵琶湖周辺の交通や経済を管理する上で、大津の戦略的な重要性を認識していたことを示しています。この頃から、大津奉行と大津代官という二つの役職が並存する体制が始まったと考えられます。

徳川幕府による奉行と代官の分離と統合

徳川家康は、慶長5年（1600年）に末吉勘兵衛を大津奉行に、翌年には大久保長安を大津代官に任命しました。これにより、奉行と代官の役割が明確に分けられました。奉行は広範囲の行政を、代官は主に財政面を担ったと考えられます。元和元年（1615年）、大津奉行は遠国奉行として位置づけられ、大津代官はその指揮下に入りました。しかし、享保7年（1722年）、両役職は廃止され、京都町奉行に統合されました。

大津代官所の復活と幕末

明和9年（1772年）、大津代官所が復活しました。以降、幕末まで石原氏が代官職をほぼ世襲しました。これは、大津の行政組織が、幕府の地方支配体制の中で重要な役割を担い続けていたことを示しています。慶応4年（1868年）、大津代官所は廃止され、大津裁判所を経て大津県となり、現在の滋賀県へとつながっています。

まとめ

大津奉行と大津代官は、近江国大津における地方行政の中枢として、長きにわたって機能しました。その歴史は、戦国時代の地方豪族の勢力争いから、徳川幕府による統治、そして幕末維新へと続く、日本の歴史を反映しています。両役職の設置、分離、統合、そして復活といった変遷は、時代の政治情勢や行政ニーズの変化を物語っており、近世日本の地方支配体制を考える上で重要な事例と言えます。また、大津の地理的な重要性と、交通・経済の中心地としての役割が、これらの役職の存続に大きく影響したことも理解できます。

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