大淀川水力電気

大淀川水力電気株式会社と九州電力株式会社：電力国家管理下の電力事業史

本稿では、大正から昭和初期にかけて存在した日本の電力会社、大淀川水力電気株式会社とその関連企業である九州電力株式会社の歴史を詳細に解説します。特に、宮崎県を流れる大淀川における水力発電事業、送電網の構築、そして電力国家管理下での企業の動向、戦後の発電所返還運動までを多角的に考察します。

大淀川水力電気株式会社の設立

1916年、電気化学工業株式会社（現デンカ）は大牟田工場を建設、カルシウムカーバイドなどの生産を開始しました。この工場の電力供給源として、同社は宮崎県の大淀川の水利権を申請、当初は河口付近に新工場を建設し、地元消費を予定していました。しかし、第一次世界大戦終結後の事業環境変化により工場建設は中止され、電力を大牟田工場へ送電する計画に変更されました。

この方針変更は、大淀川の水力開発を巡る競争が激化する中、宮崎県議会で激しい批判を招き、県外送電反対運動が活発化しました。さらに、ダム建設予定地が景勝地であったことも反対運動の要因となりました。

これを受け、電気化学工業は地元との関係改善のため、地元有力者も参加する新会社を設立することを決定。1920年2月19日、大淀川水力電気株式会社が設立されました。資本金は500万円、本社は東京に置かれ、代表取締役には電気化学工業の専務が就任しました。

発電所の建設と送電網

大淀川水力電気は、1919年から電気化学工業が着手していた大淀川第一発電所の建設を引き継ぎました。関東大震災の影響で工期が遅れ、1925年12月22日に竣工。翌年から大牟田工場への送電を開始しました。発電所の出力は1万5,000キロワットで、最新の機器が導入されました。

当初、大牟田工場への送電は別の送電会社に託送する計画でしたが、県外送電反対運動の影響で計画変更を余儀なくされ、熊本県八代まで自社で送電線を建設、八代から大牟田までは熊本電気への託送という方法をとりました。

続いて、1927年4月より大淀川第二発電所の建設に着手。1931年9月15日に竣工した第二発電所は、当時九州最大級の水力発電所でした。建設費を抑えたことで、大牟田工場の電力コストが大幅に削減され、増産が可能になりました。

1932年には、発電所運営の統一のため、第一発電所が電気化学工業から大淀川水力電気へ移管されました。

九州電力株式会社の設立と長距離送電線

第二発電所建設中の1930年、電気化学工業は八代から大牟田への送電線建設に着手。熊本電気との共同出資により、九州電力株式会社が設立されました。資本金1000万円、本社は東京に置かれ、大淀川第一・第二発電所からの電力を、熊本電気や他の電力会社にも供給する役割を担いました。

九州電力は、大淀川発電所から大牟田、さらに佐賀県武雄まで至る110キロボルト送電線を整備しました。この長距離送電線の完成により、大淀川発電所の電力は、電気化学工業、三井鉱山、東邦電力などに供給されるようになりました。

電力国家管理と企業の解散

1938年、電力管理法の成立により、日本発送電が設立され、全国の電力事業の管理が開始されました。これに伴い、九州電力は主要な送電設備を日本発送電に出資、1939年4月30日に解散しました。大淀川水力電気も同年7月20日に解散し、発電所は電気化学工業に譲渡されました。

その後、1941年には、電気化学工業は大淀川第一・第二両発電所を日本発送電に出資しました。

戦後の発電所返還運動

終戦直後、電力不足により大牟田工場の操業が困難になったため、電気化学工業は発電所の返還運動を開始。GHQや国会への陳情を行いましたが、1951年、公益事業委員会は発電所の帰属先を九州電力と決定。電気化学工業は訴訟を起こしましたが、発電所の返還は実現せず、1960年に長期需給契約が成立したことで訴訟を取り下げました。

1951年5月、新たな九州電力が発足し、大淀川第一・第二両発電所は同社に継承されました。両発電所はその後も増設・更新が繰り返され、現在も発電を続けています。

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