大溝勇

大溝 勇（おおみぞ いさむ、1889年7月4日 - 1928年6月17日）は、明治時代から昭和初期にかけて活躍した日本の造園家です。短い生涯ながら、近代日本の都市緑化において重要な役割を果たしました。

静岡県の旧君沢郡中郷村（現在の三島市）に生を受けた大溝勇は、地元の尋常小学校を卒業後、上京して富士見尋常高等小学校へ進みました。勉学に励んだ彼は、旧制第一高等学校の理農科を経て、1911年に東京帝国大学農科大学林学科に入学します。この東京帝大では、日本の林学・造園学の権威であり、「日本の公園の父」とも称される本多静六のもとで学び、その後の造園家としての基礎を築きました。

大学を卒業した翌年の1915年、大溝は内務大臣の管轄下にあった明治神宮造営局の林苑課に奉職します。この造営局は、明治天皇と昭憲皇太后を祀る明治神宮の内苑、すなわち現在の代々木公園周辺から神宮外苑に至る広大な敷地の造営を専門とする国の機関でした。彼は林苑課の一員として、壮大なスケールの明治神宮の森を創り出すための植栽計画や造営事業に深く携わり、日本の近代造園技術の粋を集めたこの一大プロジェクトに貢献しました。

明治神宮での奉職を終えた後、1921年に北海道庁の技師に任じられ、単身で北海道へ赴任します。北海道では、産業部農務課、次いで拓殖部林業課で勤務し、広大な土地における農林業振興に関わる業務に従事しました。

しかし、彼のキャリアは再び東京へと戻ることになります。1923年9月に関東大震災が発生し、帝都東京は壊滅的な被害を受けました。震災からの復興計画が進められる中、東京市は防災機能と住民の憩いの場を兼ね備えた小公園を市内に多数整備する計画を立てます。1924年3月、大溝は北海道庁を依願退職し、東京市公園課の技術掛長として復興事業に加わることになります。当時の公園課長であった井下清が欧米へ公園事情視察のために外遊する間、彼は筆頭技師として、震災からの復興を目指す東京市内に計画された数多くの小公園（その数は52か所に及んだとされます）の設計や計画立案という重責を担いました。彼は限られた予算と時間の中で、被災地の特性に応じた公園空間の創出に尽力し、帝都復興の重要な一翼を担いました。

精力的に職務を遂行していたさなか、1928年6月17日、彼は肺炎のため、わずか38歳という若さで急逝しました。在職中の突然の死であり、近代日本の都市公園整備に多大な貢献をしていた彼の早世は惜しまれました。葬儀は東京の青山葬儀所で執り行われました。

大溝勇は、明治神宮の森という日本を代表する大規模な緑地空間の創造に携わるとともに、関東大震災後の都市復興という喫緊の課題に対しても、小公園という身近な緑地空間の設計を通じて応えました。その短いながらも濃密なキャリアは、日本の造園史、都市計画史において、都市の緑化と防災という二つの側面から重要な足跡を残しています。

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