大田の戦い

大田の戦い：朝鮮戦争における激戦

大田の戦いは、朝鮮戦争中の1950年7月16日から20日にかけて、大田とその周辺地域でアメリカ軍と北朝鮮軍の間で行われた激しい戦闘です。この戦いは、アメリカ軍にとって多くの教訓を残すこととなり、その後の戦局に大きな影響を与えました。

戦闘に至る経緯

朝鮮戦争開戦後、アメリカ第24師団は、北朝鮮軍の南下を食い止めるために、各地で遅滞戦闘を展開しました。初期には、スミス支隊が烏山で、第34連隊が平沢・安城で防衛線を形成しましたが、烏山の戦いでスミス支隊が敗北し、第34連隊も混乱状態に陥り、最初の防衛線はほとんど抵抗なく放棄されました。

天安の戦い

第34連隊は、天安で再編成され、第3大隊が天安を、第1大隊がその西側、第21連隊第1大隊が東側をそれぞれ守備していました。しかし、北朝鮮軍は7月7日から8日にかけて天安を攻撃し、戦車部隊と歩兵部隊の連携により、アメリカ軍は苦戦を強いられました。対戦車兵器が不足する中、バズーカと手榴弾による肉弾戦で2両の戦車を破壊するも、連隊長が戦死したことで統制を失い、第3大隊は兵力の70％を失いました。

車嶺山脈での遅滞戦闘

天安の失陥後、第24師団は、車嶺山脈で遅滞戦闘を展開し、その間に第19連隊を招集して、錦江南岸に主戦闘陣地を構築することとしました。第21連隊は鳥致院正面を、第34連隊は公州道方面を担当し、時間稼ぎを試みました。

鳥致院正面（第21連隊）

第21連隊は鳥致院正面で遅滞戦闘を繰り広げました。連隊長は、スミス支隊の再編成のため後退していた第1大隊の動向を気にかけつつ、北朝鮮軍の攻撃に備えました。7月9日、北朝鮮軍の戦車部隊と歩兵部隊が全義に侵入し、アメリカ軍は砲兵と航空支援を投入してこれを撃退しました。しかし、翌10日、北朝鮮軍は再び攻撃を開始し、孤立した小隊が壊滅、第1大隊は両翼を包囲される状況に陥り、退却を余儀なくされました。第21連隊はその後、再編成された部隊を投入して逆襲を試みましたが、損害は甚大で、戦力は半個大隊にまで低下しました。

公州道（第34連隊）

一方、公州道方面では、第34連隊が遅滞戦闘を展開しました。第3大隊が壊滅していたため、第1大隊が主体となり、待ち伏せと離脱を繰り返しながら、北朝鮮軍の進撃を遅らせました。しかし、11日午後には、北朝鮮軍に捕捉され、損害を受けました。それでも第34連隊は、疲労と損害が蓄積していた北朝鮮軍の攻撃をしのぎ、離脱に成功しました。

錦江線の戦闘

第24師団は、錦江南岸に主戦闘陣地を構築して北朝鮮軍を阻止する計画でしたが、車嶺山脈での遅滞戦闘で戦力が大きく低下したため、この計画は破棄せざるを得なくなりました。師団長は、錦江線で数日遅滞した後、大田に後退して防御を固めることを決定しました。

公州道（第34連隊）

公州道正面では、第34連隊が引き続き防御を担当しましたが、通信機材の不足や兵士の疲労が問題となりました。北朝鮮軍は、新鋭の第19連隊を避け、第34連隊の守る公州道正面から渡河を試み、7月14日には錦江線を突破しました。

大坪里（第19連隊）

一方、第19連隊が守備する大坪里正面は師団の重点とされていましたが、北朝鮮軍は15日早朝に渡河を開始し、予備兵力の大部分を注ぎ込んだアメリカ軍の隙をつき、夜間には後方へ浸透しました。16日未明には、あちこちで交戦が発生し、第19連隊は壊滅状態に陥りました。

大田の戦い

7月16日から18日の情勢

第19連隊の壊滅を受け、ディーン少将は、第34連隊を大田の内壕である甲川まで後退させ、第21連隊に大田東方の防御を、第19連隊には再編成を命じました。しかし、第8軍司令官の要望により、大田の保持を強いられ、不利な状況下で戦わざるを得なくなりました。

7月19日の情勢

7月19日朝、北朝鮮軍は攻撃を開始し、アメリカ軍は一部で撃退に成功したものの、大田飛行場の砲兵部隊が敗北し、さらにアイレス大隊が包囲されるなど、状況は悪化しました。

7月20日の情勢

7月20日、北朝鮮軍は山岳機動により大田を包囲しつつありました。第34連隊は、京釜本道、論山道、清州道、錦山道を守備し、第3大隊を予備としていましたが、各所で戦闘が激化しました。アイレス大隊は退却を開始し、マックグライル大隊も後に続きましたが、その情報は連隊本部に伝わりませんでした。大田市内では、ディーン少将自らが戦車と戦うなど奮戦しましたが、戦況は悪化の一途をたどりました。

大田市街戦

大田市内では、各部隊が健在であると信じて、ディーン少将らが戦車部隊と戦いましたが、各部隊からの報告は錯綜しており、戦況は不明瞭でした。各部隊は、北朝鮮軍の包囲を突破できず、市街戦は激化しました。最終的に、大田からの撤退を余儀なくされましたが、その撤退は混乱を極めました。ディーン少将は、重傷を負い、後に北朝鮮軍の捕虜となりました。

戦闘の影響

大田の戦いで、第24師団は戦力の45％を失い、事実上壊滅しました。大田は、主要な交通の要衝であったため、その喪失は、アメリカ軍にとって大きな痛手となりました。その後、第8軍は防御線を洛東江まで下げざるを得なくなり、釜山橋頭堡の戦いへと移行することになりました。

この戦いは、アメリカ軍にとって多くの教訓を残し、その後の戦局に大きな影響を与えました。特に、情報伝達の重要性、通信の確保、戦場における柔軟な対応の必要性が浮き彫りになりました。

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