烏山の戦い

烏山の戦い

烏山の戦い（オサンのたたかい）は、1950年7月5日、朝鮮戦争中に京畿道烏山付近で発生した、アメリカ軍と北朝鮮軍との間の戦闘です。この戦闘は、両軍の地上部隊が初めて本格的に衝突した戦いとして知られています。

戦闘に至る経緯

1950年6月25日早朝、北朝鮮軍が全面侵攻を開始。これを受け、アメリカ極東軍司令部は、6月27日にジョン・H・チャーチ准将率いる前進指揮所兼連絡班（ADCOM）を韓国に派遣しました。6月28日にはソウルが陥落し、チャーチ准将は米地上軍の投入を具申。ダグラス・マッカーサー元帥がこれを承認し、トルーマン大統領の許可を得て、米軍の本格的な介入が決定しました。

当時、極東陸軍の主力は第8軍であり、第24歩兵師団と第25歩兵師団の一部が朝鮮半島に投入されることになりました。第24師団からは、チャールズ・B・スミス中佐が率いるスミス支隊（Task Force Smith）が先遣隊として選ばれました。

スミス支隊は、兵力440名で編成され、7月1日に釜山に到着、7月2日には大田に移動しました。チャーチ准将は、スミス支隊に平沢と安城の間の防衛線を確保するように命令しましたが、戦力不足を懸念した第24師団長のウィリアム・F・ディーン少将は、第34連隊の北上を急がせました。スミス支隊は、第34連隊が展開するまでの間、敵を遅滞させるという任務を負うことになりました。

戦闘の展開

7月4日、スミス支隊は平沢で集結し、第52野砲大隊の支援を受け、7月5日午前3時、烏山付近の高地に展開しました。第52野砲大隊は、M2 105mm榴弾砲を6門装備していましたが、対戦車榴弾はわずか6発しかありませんでした。

午前7時30分、北朝鮮軍のT-34-85戦車8両を先頭にした縦隊が南下してくるのをスミス支隊は確認。午前8時16分、砲兵部隊が射撃を開始しました。これが、朝鮮戦争においてアメリカ軍が発射した最初の砲弾となりました。しかし、命中弾を得るも効果は認められず、スミス支隊はM20 75mm無反動砲やバズーカによる射撃も試みましたが、戦車を撃破することができませんでした。戦車部隊は、スミス支隊の陣地を突破して前進し、午前11時15分頃には通過を完了しました。

午前10時頃からは、戦車3両に先導された北朝鮮軍第4師団第16, 18連隊が前進を開始。スミス支隊は射撃で応戦しましたが、有線通信が遮断され、無線も不通になったため、砲兵部隊の支援を得ることができませんでした。正午頃には、スミス支隊は両翼から包囲され、スミス中佐は陣地正面を縮小して対応しましたが、北朝鮮軍の機関銃部隊が優位な高地に展開して瞰射を開始しました。

午後2時30分頃、包囲が狭まってきたこと、砲兵部隊からの応答がなく、航空支援も期待できなかったことから、スミス中佐は後退を決意しました。B,C中隊を交互に後退させる相互掩護作戦をとりましたが、支援火力がなく後退は困難を極め、重機関銃の射撃で部隊は壊乱し、組織を失いました。スミス中佐は、殿のB中隊の後退を見届けた後、砲兵部隊と共に後退しました。

この戦闘で、スミス支隊は150名の人員を喪失し、無反動砲と重迫撃砲の全てを遺棄しました。砲兵部隊も全砲を遺棄して後退し、31名が行方不明となりました。

戦闘の影響

烏山が突破されたことで、平沢と安城を防衛していた第34連隊も壊滅的な状況で後退を余儀なくされ、ディーン少将が計画した最初の阻止線は、殆ど抵抗を示すことなく放棄されることとなりました。

同時期、東部では韓国軍が遅滞戦闘を展開していましたが、スミス支隊や第34連隊の後退により、韓国軍も常に左翼に危険を感じ、米軍に合わせる形で後退しました。米軍第24師団は大田の戦いでも大敗し、連合軍は釜山をめぐる円陣陣地に追い詰められていくことになりました。

この戦いは、アメリカ軍が北朝鮮軍の戦車戦力に対して、有効な対抗策を持たないという状況を浮き彫りにし、後の戦局に大きな影響を与えることとなりました。

もう一度検索