大矢田神社

岐阜県美濃市に位置する大矢田神社は、かつて郷社として崇敬を集めた古社です。江戸時代初期に再建された本殿と拝殿が国の重要文化財に指定されており、長い歴史を物語る風格を備えています。また、境内周辺に広がる広大なヤマモミジの原生林は、国の天然記念物として保護され、秋には見事な紅葉が訪れる人々を魅了します。

祭神

大矢田神社では、主に建速須佐之男命（たけはやすすのおのみこと）と天若日子命（あめのわかひこのみこと）をお祀りしています。

由緒と歴史

神社の創建は非常に古く、社伝によれば孝霊天皇の時代に遡ると伝えられています。この地の深い山中に人々を苦しめる悪竜が棲み着いた際、困り果てた里人たちが、近くの喪山にあった天若日子命の廟所（現在の喪山天神社）に加護を求め祈りを捧げました。すると、里人の夢に建速須佐之男命を祀るようにとのお告げがありました。その夢に従い、建速須佐之男命をお迎えしてお祀りしたところ、建速須佐之男命が現れて悪竜を見事に退治してくれたといいます。平和を取り戻した里人たちは深く感謝し、建速須佐之男命と、当初祈りを捧げた天若日子命の二柱を祀る祠を建てたのが、この神社の始まりとされています。

奈良時代の養老2年（716年）には、高僧として知られる泰澄大師がこの地（天王山と呼ばれる一帯）を開き、天王山禅定寺と称する寺院を建立しました。先に建立されていた祠は、この禅定寺の一部として組み込まれ、祭神は仏教の牛頭天王と習合されることとなります。禅定寺は最盛期には七つの坊を持つほどの規模を誇っていましたが、戦国時代の弘治2年（1556年）、戦火に見舞われて伽藍の大半を焼失してしまいます。その後、極楽坊と常泉坊という二つの坊のみが再興され、細々とその法灯を繋いでいきました。

時代は下って明治3年（1870年）、明治政府が推し進めた神仏分離令とそれに伴う廃仏毀釈の動きの中で、禅定寺は大きな転換期を迎えます。牛頭天王として祀られていた祭神は本来の建速須佐之男命に戻され、社名は大矢田神社と改められました。そして、かつての極楽坊に属していた社僧、真清氏が新たに神官となりました。この改革により、護摩堂や鐘楼、観音堂といった多くの仏教施設は廃されてしまいましたが、山門にあたる楼門（旧仁王門）だけは解体を免れて今日まで残されました。そのため、大矢田神社の境内には、現在も寺院の建築様式を残す楼門が立ち、神仏習合時代の名残を留めています。

主な文化財

大矢田神社には、長い歴史の中で伝わる数多くの文化財が所蔵されています。

本殿・拝殿: 江戸時代初期に再建された建造物で、それぞれ寛文12年（1672年）と寛文11年（1671年）のものです。建築様式が評価され、国の重要文化財に指定されています。
楼門: 享保8年（1723年）に再建された門で、神仏分離以前は仁王門として寺院の山門の役割を担っていました。その歴史的価値から美濃市の指定文化財となっています。
* 楓谷ヤマモミジ樹林: 神社を取り囲む楓谷一帯に広がるヤマモミジの原生林です。約90.3アールの範囲にわたり、樹齢千年を超える古木を含む約3000本のヤマモミジが群生しており、昭和5年（1930年）に国の天然記念物に指定されています。

この他にも、岐阜県の指定重要文化財として室町時代のものとされる絹本著色釈迦十六善神図や、明応3年（1494年）と大永3年（1523年）に鋳造された二つの梵鐘などが伝えられています。さらに、美濃市の指定文化財として、室町時代の阿弥陀如来坐像、弘法大師坐像、大般若写経、兜などが所蔵されています。また、「大矢田のヒンココ」と呼ばれる独自の民俗芸能は、国の選択無形民俗文化財に記録作成等の措置を講ずべきものとして指定されています。

大矢田もみじ谷

大矢田神社の周囲に広がる楓谷は、国の天然記念物であるヤマモミジの原生林が広がる、全国的にも有数の紅葉の名所として知られています。「大矢田もみじ谷」として親しまれ、約3000本ものヤマモミジが秋の深まりとともに鮮やかに色づきます。特に、樹齢千年を超えると言われる古木が織りなす景観は圧巻です。平成16年（2004年）には、岐阜県が選定する「飛騨・美濃紅葉三十三選」の一つにも選ばれており、例年11月下旬頃に見頃を迎えます。燃えるような紅葉と、歴史ある神社のたたずまいが調和した美しい景色は、多くの観光客や写真愛好家を惹きつけています。

所在地・アクセス

大矢田神社は、岐阜県美濃市大矢田に鎮座しています。公共交通機関を利用する場合、岐阜バス高美線の「大矢田」バス停から約2.0kmの距離です。また、予約制の相乗りタクシー「のり愛くん」を利用する場合は、「大矢田上切集会場」停留所から約1.0kmとなります。

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