大統領の料理人

フランス大統領の胃袋を掴んだ女性料理人：映画『大統領の料理人』

1980年代のフランス。田舎町で小さなレストランを営んでいたオルタンス・ラボリは、ある日突然、フランス大統領、フランソワ・ミッテランの専属料理人に抜擢されます。エリゼ宮殿に赴任した彼女は、大統領官邸史上初の女性料理人として、男性社会の中で数々の困難に直面します。周囲の男性陣からの嫉妬や、職場のしがらみ、そして大統領の健康管理や経費削減といった問題にも対処しなければなりませんでした。

しかし、オルタンスは持ち前の明るさと料理の腕前で、少しずつ周囲の理解を得ていきます。特に、素朴な家庭料理をこよなく愛するミッテラン大統領からは、厚い信頼を寄せられました。彼女は、大統領の好みに合わせた献立を考案し、時には、大統領の健康を考慮した特別な料理を提供しました。

彼女の料理は、ただ美味しいだけではなく、大統領にとって心の安らぎを与えてくれるものだったと言えるでしょう。彼女は、エリゼ宮殿の厳格な雰囲気の中にも、温かさや家庭的な雰囲気をもたらしました。その献身的な仕事ぶりに、給仕長のジャン＝マルクや若い助手のニコラなど、周りの人々も協力的になり、オルタンスを支えていきます。

しかし、大統領の健康管理と経費削減は、オルタンスの料理にも制限を加えることになります。自由な発想で料理をすることが難しくなり、オルタンスは心身ともに疲れ果ててしまいます。2年間の大統領専属料理人としての任務を終えた後、彼女は新たな挑戦として南極のフランス観測基地で料理人として働くことを選びます。

映画『大統領の料理人』では、南極観測基地での1年間と、エリゼ宮殿での2年間が交互に描かれています。南極の厳しい環境での生活と、華やかな大統領官邸での生活。対照的な二つの世界でのオルタンスの姿は、彼女のたくましさや、料理人としての揺るぎない信念を私たちに見せてくれます。

この映画でミッテラン大統領を演じたのは、フランスの高名な哲学者、ジャン・ドルメッソン。実は本作が彼の映画初出演だったという事実も興味深い点です。カトリーヌ・フロ演じるオルタンスは、第38回セザール賞で主演女優賞にノミネートされるなど、高い評価を得ました。

映画全体を通して、オルタンスの料理への情熱、そして人間としての温かさが丁寧に描かれています。また、フランスの文化や歴史にも触れることができ、単なる料理映画としてだけでなく、人間ドラマとしても十分に楽しめる作品となっています。

フランスの映画批評サイトのアロシネでは、21のメディアによる平均評価が5点満点中3.2点。Rotten Tomatoesでは31件の評論のうち21件が高評価で、平均点は10点満点中6.10点。Metacriticでも14件中9件が高評価と、批評家からも高い評価を得ています。

『大統領の料理人』、それは単なる料理映画の枠を超えた、フランスの文化、政治、そして人間の温かさを描いた感動的な物語です。一度ご覧になることをお勧めします。

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