大衆部

大衆部の概要

大衆部（だいしゅぶ、英語: Mahāsaṃgītika）は、古代インドの仏教内で形成された部派の一つです。この部派は、音訳として「摩訶僧祇部」とも称され、仏教教団の中で重要な位置を占めていました。大衆部は、釈迦の死後約100年を経た頃に、十事の非法や大天の五事に関する教義の解釈を巡って意見が分かれた結果として誕生しました。この分裂は、主に「上座部」との対立によって引き起こされ、部派仏教時代の始まりを象徴する出来事とされています。

教義の対立と分裂

大衆部の誕生は、教団内部の意見の不一致から生じました。具体的には、律の解釈に関する十事の非法や、大天の五事の理解が主な争点となり、それによって教団は大きく二つに分裂しました。上座部と大衆部の間で展開された論争は、同時に仏教における教義や実践の多様性を示す重要な要素となっています。

その後、大衆部はさらなる細分化を迎え、いくつかの派閥が形成されました。これには「一説部」、「説出世部」、「鶏胤部」、「多聞部」、「説仮部」、「制多山部」などが含まれます。それぞれの派閥は独自の解釈や教義を展開し、仏教の多様性を一層豊かにしました。

大衆部の影響と広がり

大衆部は主に中インド及び南インドにその影響を及ぼしましたが、全体としては勢力はそれほど大きくありませんでした。大衆部は、仏教教義の中でも特に「現在有体・過未無体」を主張し、対照的に「三世実有・法体恒有」といった説を唱える説一切有部との深い対立関係が構成されました。この教義における対立は、後の部派仏教の発展において大きな影響を及ぼしました。

大衆部と大乗仏教

興味深いことに、大衆部は大乗仏教の源流ともされる説があります。この説は一時は否定された時期もありましたが、最近では再評価の動きが見られています。特に、八千頌般若経の古写本が発見され、その内容がプラークリットで記述されていることが注目を集めています。この発見は、大衆部の思想や教義が後の大乗仏教に与えた影響を再考する重要な契機となるかもしれません。

律と文化の伝播

大衆部はその律の総称を『摩訶僧祇律』とし、仏教徒の日常生活や教義の実践に重要な役割を果たしました。この律は大衆部の信者に向けた具体的な行動指針を提供し、その後の仏教の発展に寄与しました。律の厳格な遵守は、大衆部の文化や伝統の根幹を形成する要素となったのです。

大衆部の歴史は、古代インドの仏教がどのように発展し、変遷していったのかを理解する上で欠かせない一ページであり、仏教内部のさまざまな論争や教義の変遷を知るための貴重な情報源となっています。

もう一度検索