大規模地震対策特別措置法

大規模地震対策特別措置法（大震法）とは

大規模地震対策特別措置法（大震法）は、昭和53年（1978年）に制定された、地震災害の軽減を目的とした特別な法律です。特に、東海地震の事前予知が可能であるという前提のもと、警戒宣言の発令とそれに伴う予防的な対策を定めていました。

大震法の背景と目的

大震法は、東海地震の発生が切迫しているという認識のもと、その被害を最小限に抑えるために制定されました。当時、東海地震は事前に予知できる可能性があると考えられており、警戒宣言を発令することで、住民の避難や応急対策を迅速に行うことを目指していました。

情報発表までの体制

大震法に基づき、気象庁は東海地域周辺に地震計やひずみ計などを設置し、地震活動や地殻変動を常時監視する体制を構築しました。観測データに異常が見られた場合、「地震防災対策強化地域判定会」が東海地震の発生につながるかどうかを科学的に検討し、その結果を気象庁長官に報告します。長官は、その情報を内閣総理大臣に「地震予知情報」として報告し、閣議を経て、内閣総理大臣が「警戒宣言」を発令するという流れでした。

情報名の変遷

気象庁が発表する情報は、時代とともに変化してきました。

当初: 「大規模地震関連情報」「判定会招集連絡報」
1998年12月: 「東海地域の地震・地殻活動に関する情報」を追加
2004年1月: 「東海地震予知情報」「東海地震注意情報」「東海地震観測情報」に変更
2011年3月: 「東海地震に関連する調査情報（臨時）」に変更、「東海地震に関連する調査情報（定例）」を追加

警戒宣言発令後の対応措置

大震法に基づき、地震防災対策強化地域（強化地域）が指定され、国や地方自治体、特定の民間事業者は、警戒宣言発令後の対応措置を定めた計画を作成しました。これらの計画には、避難場所や避難経路の整備、防災訓練の実施などが含まれていました。また、国は計画の支援措置として、消防ポンプや防災用井戸などの税制優遇や、消防用施設整備などの補助を行いました。

予知可能性の問題と方針転換

しかし、その後の研究により、東海地震の事前予知は非常に困難であることが明らかになりました。そのため、2017年には大震法による防災体制が見直され、気象庁が発表する「東海地震に関連する情報」は廃止されました。代わりに、「南海トラフ地震に関連する情報」の運用が開始され、対象エリアが南海トラフ全域に拡大されました。この情報は、地震発生の可能性が相対的に高まった場合に発出されるもので、予知情報ではなく、現在の科学的知見を防災対応に活かすための情報と位置づけられています。

現在の大震法

現在の大震法は、南海トラフ地震を対象とした防災体制の強化を目的としています。地震発生の可能性が高まった場合には、注意喚起や避難準備を促すための情報が提供され、住民の防災意識の向上や適切な避難行動の支援に重点が置かれています。

まとめ

大震法は、東海地震の予知を前提とした法律でしたが、予知の困難性が認識されたことで、南海トラフ地震を対象とした防災体制へと転換しました。現在では、科学的な知見に基づいた情報提供や、住民の防災意識の向上を通じて、地震災害の軽減を目指しています。

参考文献

『防災白書 平成2年版』国土庁、1990年。ISBN 4-17-390165-8。
地学団体研究会 編『最新 地学事典』平凡社、2024年3月。ISBN 978-4-582-11508-6。

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