警戒宣言

警戒宣言とは

警戒宣言とは、日本において大規模地震対策特別措置法（大震法）に基づき、東海地震の発生のおそれがあると判断された場合に、内閣総理大臣が発令する地震予知情報のことです。この宣言は、地震防災対策強化地域の住民などに対して警戒態勢をとるよう呼びかけるとともに、事前に決定された計画に基づいて応急対策を一斉に開始する合図となります。

警戒宣言の性質

大震法は、想定される東海地震の事前予知が可能であるという前提のもと、警戒宣言の発令とそれに伴う予防的な対応を定めています。警戒宣言は、応急対策を開始するトリガーとしての役割を持ち、住民などに対して警戒態勢をとるべきことを周知し、協力を呼びかける性質があります。

警戒宣言が内閣総理大臣によって発令されるのは、地震予知情報が一般市民にとって馴染みが薄く、適切な判断が難しい可能性があるためです。そのため、応急対策の必要性の判断は、内閣総理大臣が責任を負う形となっています。

応急対策には、社会活動全般に及ぶ事項が含まれており、行政機関や自治体の長、指定公共機関、地震防災応急計画を定める事業者には、応急対策を実施する義務が課せられます。また、強化地域内の住民などについても、火気の使用、自動車の運行、危険な作業などの自主的な制限や、災害防止・軽減のための措置を講じることが求められます。

行為規制を最小限に抑えるため、各組織が自らの責任で作成した計画に基づいて対策を実施するという考え方が採用されています。そのため、警戒宣言が結果的に「空振り」となった場合でも、原則として補償は行われないことになっています。

発表までの流れ

気象庁は、東海地域周辺の地震活動や地殻変動を常時監視しており、異常が発見された場合には、まず「地震防災対策強化地域判定会」（判定会）において、東海地震の発生につながるかどうかの科学的検討が行われます。発生につながると判断された場合、気象庁長官に報告され、長官は内閣総理大臣に「地震予知情報」として報告します。この情報に基づいて、閣議を経て、内閣総理大臣が警戒宣言を発令するという仕組みになっています。また、警戒宣言と連動して、気象庁は東海地震予知情報を発表します。

地震の発生のおそれがなくなった場合には、閣議を経て、内閣総理大臣が「警戒解除宣言」を発表し、警戒態勢が解除されます。

周知の方法

警戒宣言発令の情報は、テレビ・ラジオなどの放送、防災無線、半鐘などを通じて周知されることが定められています。テレビについては緊急警報放送の対象であり、臨時ニュースの放送が想定されています。

警戒宣言発令後の対応

警戒宣言が発令されると、政府は地震災害警戒本部を設置し、静岡県にも現地警戒本部が設置されます。地震防災対策強化地域（強化地域）の都県は都道府県地震災害警戒本部を、市区町村は市町村地震災害警戒本部を設置します。

強化地域内では、予め作成された自治体の地震防災強化計画や、特定の民間事業者の地震防災応急計画に基づき、以下のような具体的な対応が実施されます。

避難対象者は、指定された避難場所への避難が求められます。
電力は発電用燃料の受け入れを中断し、都市ガスは支障のない範囲で減圧されます。
電話は一般通話が規制され、防災機関が利用する重要回線の確保が図られます。
鉄道は、強化地域内では在来線・新幹線ともに最寄りの安全な駅に停車し、強化地域周辺でも一部徐行が行われます。路線バスやタクシーは強化地域内での運行が中止され、船舶は津波が想定される周辺海域での運行が中止されます。
道路は、強化地域内の避難路や緊急輸送路での走行が禁止または制限され、一般道の主要路線でも走行を極力抑制する規制が行われます。強化地域内への進入は極力制限される一方、強化地域外への移動は原則として制限されません。
金融機関は実店舗の営業を停止します（オンラインでは稼働）。
百貨店や劇場は営業を停止し、客を避難させます。
病院は外来診療を中止し、入院患者は家族に引き渡すか、近隣の安全な場所に避難させます。
学校や幼稚園は児童・生徒を保護者に引き渡すか、近隣の安全な場所に避難させます。
救助、救急、消火、医療を行う救援部隊は、準備を進めて強化地域周辺部へ前進し、待機します。
* 強化地域内の住民は、火気の使用、自動車の運行、危険な作業などの制限、消火の準備など、各々が災害防止・軽減のための自主的な行動を取る責務があります（法第22条）。

方針の変更

2017年には大震法による防災体制が見直され、気象庁が発表していた「東海地震注意情報」や「東海地震予知情報」などの東海地震に関連する情報は、同年10月31日をもって運用を終了しました。その後、対象エリアを南海トラフ全域へと拡大し、11月1日から「南海トラフ地震に関連する情報」の運用が開始されました。この情報は、現在の科学的知見を防災対応に活かすため、対象エリアで一定規模以上の地震や観測値の異常があった場合など、地震発生の可能性が相対的に高まったときに発出されるという位置づけとなっています。

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