大谷光照

大谷光照：昭和期の浄土真宗本願寺派宗主と戦時下の宗教指導者

大谷光照は、日本の浄土真宗本願寺派第23世宗主として、昭和時代の中枢を担った宗教家です。昭和天皇の血縁者であり、その立場と影響力を背景に、戦時下の宗教政策に深く関わりました。本稿では、その生涯と、特に戦時中における活動、そして戦後の教団改革への貢献、そして残された課題について詳述します。

生い立ちと宗主就任

大谷光照は、京都で浄土真宗本願寺派第22世宗主・大谷光瑞（鏡如上人）の弟である大谷光明（浄如上人）を父として生まれました。母は九条道孝の娘で、その姉は貞明皇后という皇室との深い繋がりを持っていました。1914年、西本願寺の疑獄事件をきっかけに、光瑞が宗主を退いた際、本来は光明が後を継ぐべきでしたが、光瑞の意向により、光明も辞退。当時4歳だった光照は、家側近の代理管理の下で成長し、1927年に得度、23世宗主の座に就きました。その後、第一高等学校、東京帝国大学文学部東洋史学科を卒業しています。1937年には、徳大寺実厚の長女と結婚し、子宝にも恵まれました。

戦前戦中における活動と「戦時教学」

青年宗主として戦時下における教団の指導を担った光照は、1933年には声明集の改定などにも取り組みましたが、1941年には宗制を改定し、従来の「神祇不拝」の宗風を放棄、「王法為本ノ宗風ヲ顕揚ス是レ立教開宗ノ本源ナリ」と宣言しました。これは、国家神道との連携を強め、「戦時教学」を推進する転換点となりました。

光照は、親鸞の著作に皇室を不敬する記述があると判断し、該当部分の削除を命じるなど（聖典削除問題）、積極的に戦争協力を促す声明を発布することで戦時体制を支持しました。それらの声明では、天皇のために命を捧げるよう信徒に訴えかけています。さらに、自ら軍隊慰問を行い、南京攻略戦後には南京に入城して犠牲者追悼会を行うなど、積極的な戦争協力姿勢を示しました。教団も大量の戦時国債を購入し、戦後の財政危機の一因となりました。

戦後と教団改革

敗戦後、GHQの指導の下、西本願寺は宗制改革を行い、宗主の権限を縮小。宗主の称号も「法主」または「門跡」から「門主」へと変更されました。光照は、1946年には管長制廃止などの教団制度改革を実行。その後も、蓮如上人遠忌法要や親鸞聖人誕生800年慶讃法要など、大規模な法要を執り行い、教団の運営に尽力しました。1975年には来日したエリザベス二世女王を本願寺で迎え、自ら案内を務めるなど、国際交流にも積極的に関わりました。1977年、門主を退任しました。

戦争責任と戦時教学のその後

光照の戦時中の「戦時教学」推進と戦争協力への関与については、戦後、多くの批判が寄せられました。特に、教団内にも責任追及を求める声があり、一部教区では強い批判があったとされています。しかし、光照存命中は、教団レベルでの公式な是正は行われず、2002年の没後、2004年に戦時中の声明を事実上失効させる宗令が出されました。さらに2007年には、宗制において歴代門主の消息が聖典に準じるという規定が、親鸞、覚如、蓮如の三人のみに変更されました。これによって、教団としての問題解決を図ったとされています。

人物像と業績

光照は、門主在任中、正信偈の改譜や法式規範の整備など、儀式儀礼面での厳格さを示しました。一方で、切手収集、テニス、ゴルフなど多彩な趣味を持っていたと伝えられています。その人物像は、伝統的な宗教家としての厳格さと近代的な感覚を併せ持った複雑なものであったと言えるでしょう。

まとめ

大谷光照は、戦時下の国家神道との連携、戦争協力、そして戦後の教団改革という、激動の時代を生き抜いた宗教指導者です。その功績と責任は、現在も議論の的となっていますが、彼の活動は、昭和期の日本仏教史、そして浄土真宗本願寺派の歴史において、大きな足跡を残したことは否定できません。

もう一度検索