大通智勝如来

大通智勝如来：慈悲と智慧の化身

大通智勝如来は、大乗仏教において信仰を集める如来の一尊です。その存在は、『妙法蓮華経』の化城喩品に説かれており、古くから大日如来と同一視されることもありました。しかし、法華経の経典には具体的な真言が記載されておらず、現在一般的に知られている真言は、後世に作られたものです。

複数の真言と信仰

大通智勝如来には複数の真言が存在します。一つは、サンスクリット語の尊名を基に作られた真言で、四国八十八箇所霊場の巡拝において用いられるようになりました。これは、霊場の一つである南光坊が推奨する真言でもあります。もう一つの真言は、「南無大通智勝仏」とシンプルに尊名を読み上げるもので、広く信仰されています。さらに、金剛界大日如来と同一視する考え方もあり、「オン・アビラウンケンバザラダト・バン」という真言も用いられる場合もあります。

謎めいた過去世と三嶋大明神

大通智勝如来は、出家以前は王子であったと伝えられています。さらに、16人の息子（王子）を持ち、その16人目の息子が釈迦如来の過去世であるという説話も存在します。この物語は、大通智勝如来の慈悲深い性質と、広大な仏の教えへの繋がりの深さを示唆しています。

また、大通智勝如来は、三嶋大明神（大山祇神社）の本地仏として信仰されてきました。『平家打聞』や『曾我物語』などの中世の文献にも、三嶋大明神の本地仏としての言及が見られます。これは、大通智勝如来が、自然崇拝と仏教信仰の融合を示す象徴的な存在であったことを物語っています。

現存する仏像と貴重な資料

大通智勝如来を直接的に表す仏像は少なく、日本国内においても、愛媛県今治市周辺の寺院に数例が現存するのみです。

中でも、四国八十八箇所第55番札所である別宮山金剛院光明寺南光坊の本尊は有名です。元々は大山積明神の本地仏として祀られていましたが、明治時代の神仏分離によって現在地に移されました。太平洋戦争の空襲で焼失した後、再建されたものです。

また、大三島の大山祇神社元別当寺の東円坊に安置されている木造金剛界大日如来坐像は、智拳印の向きが通常とは逆であることから、大通智勝如来を表す貴重な古仏と考えられています。鎌倉時代の作とされ、町指定有形文化財に指定されています。

さらに、大三島の向雲寺にある大通庵の本尊も大通智勝如来です。両脇に十六王子が祀られており、南北朝時代の作と推定されています。特徴として、手が衣の下に納められている点が挙げられます。

まとめ

大通智勝如来は、その起源や真言、信仰形態に謎めいた部分が多く残されている一方で、多くの伝説や信仰を集めてきました。現存するわずかな仏像からも、その神聖さと歴史的意義が感じられます。今後の研究を通して、大通智勝如来に関するさらなる理解が深まることが期待されます。

もう一度検索