東円坊

東円坊（とうえんぼう）

東円坊は、愛媛県今治市大三島町宮浦に位置する寺院です。本尊として薬師三尊を祀り、大山祇神社の祭神である大山積神の本地仏、大通智勝如来の古仏が鎮座しています。納経の際には「元祖四国五十五番三島宮 大通智勝如来 神宮寺東円坊」と記します。

概要

当寺に所蔵されている大通智勝如来坐像は、かつて大山祇神社に祀られていた本地仏であり、神仏分離の際に移されました。像が神社のどこに祀られていたかは定かではありませんが、神宮寺（現在の祖霊社）であると言われています。

大山積神の娘は木花開耶姫であり、その夫は瓊瓊杵尊（天照大神の孫）です。大通智勝仏には16人の王子がおり、末子が釈迦であることから、天照大神を大日如来、次に尊い仏として大山積神の本地仏に大通智勝仏が当てられたと伝えられています。

江戸時代初期の承応2年（1653年）に澄禅が巡拝した記録『四國辺路日記』には、三島ノ宮への参拝について、今治の別宮に参拝していて「本式は遍路なればその嶋に渡る、此に札を納めるは略式なり」と記述されています。また、貞享2年（1685年）に真念が刊行した『四国遍路道指南』には、「別宮は三島ノ宮の前札所なり三島までは海上7里あり故に是より拝む」と記されています。さらに、寛政12年（1800年）の『四国遍礼名所図会』では、53番円明寺の後に、「五十五番三島社祭神大山積大明神」というタイトルで、他の札所と同様に大山積社および神宮寺が図面入りで解説され、その次に54番延命寺、55番別宮と記述されています。別宮の項では「大三島へ渡らざる時は此所にて遥拝す」とあり、当社が重要視されていたことがうかがえます。大三島の南対岸、波止浜港の近くには文政13年（1830年）建立の遍路石があり、その港から北上して大山積神社と本地大通智勝如来に参拝納経していたことから、大三島の三嶋大明神に参拝することが正式な四国遍路であり、多くのお遍路が大三島まで足を運んでいたと考えられます。現在では、神社と分離し、その本地仏である大通智勝如来が坐する当寺への参拝が、四国遍路の本来の姿であるとも言えるでしょう。

沿革

保延元年(1135年)に河野為澄の次男である妙尊が役小角の法を学び、河野一族の婦人たちの支持を得て社辺に一宇の寺塔を建立したのが始まりです。その後、妙尊の子が東円坊を名乗り、神社に属して仏事を行う供僧の監督的な立場の検校職は代々当坊が任じられました。

東円坊は、神仏習合時代にあった神宮寺24坊の一つであり、24坊のうち8坊は正治年間（1199年～1201年）に四国本土の別宮に移転し、残った16坊も近世初頭の天文5年（1577年）の記録には4坊になっていました。明治の神仏分離の際には当坊のみが残りました。また、それまで大三島の坊は仁和寺の系統である御室派でした。

江戸時代の万治年間（1658年～61年）に、当坊は光林寺の末寺となりました。

明治初年の神仏分離令により、当坊は大山祇神社から離れ、その際、大通智勝如来が当坊に移されました。

2019年には本堂が取り壊され再建され、2020年5月15日に完成。大通智勝如来が鎮座していた本堂脇の堂の仏像も本堂に移されました。

伽藍

本堂：中央に大通智勝如来坐像、向かって右脇陣に薬師如来坐像と両脇に日光菩薩立像・月光菩薩立像、左脇陣に釈迦如来坐像が安置されています。
庫裡

文化財

重要文化財
鈸子（ばっし）1対・銅鑼（どら）1口 - 鈸子のうち1枚と銅鑼に正慶元年（1332年）俊海施入の刻銘があります。2019年7月23日指定。
今治市指定有形文化財
木造金剛界大日如来坐像 1躯（彫刻） - 伝・大通智勝如来。元徳2年（1330年）4月の銘があり、仏師院吉の作と言われています。昭和55年2月7日指定
木造胎蔵界大日如来坐像 1躯（彫刻） - 伝・釈迦如来。地元では弥勒さんと呼ばれていました。鎌倉末期作。昭和55年2月7日指定。
木造南無太子立像 1躯（彫刻） - 室町時代作。昭和55年2月7日指定。
* 木造薬師如来三尊像 3躯（彫刻） - 当寺本尊。1542年の銘があります。昭和55年2月7日指定。

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