大阪アルカリ事件

大阪アルカリ事件

大阪アルカリ事件とは、明治時代の大阪で起こった公害に関する事件です。この事件は、大阪アルカリ株式会社が運営していた肥料工場から発生した亜硫酸ガスが原因となり、周辺の農作物や住環境に深刻な被害をもたらしたことから始まりました。この事件は、後に日本の公害問題に関連する初めての重要な判例として、大審院によって取り扱われました。

事件の背景

大阪アルカリは1879年に創立し、主に硫酸と硫酸ソーダを製造していました。事業拡大を続け、1893年には大阪アルカリ株式会社と改名しました。工場は大阪市の郊外、大野に位置していましたが、工場の操業が進むにつれて、近隣住民は煙や悪臭に悩まされるようになりました。特に影響を受けたのは、近所の農地で作られる米や麦でした。住民たちは、この状況に対して非常に不満を抱き、特に地主の外村与左衛門とその36人の小作人が大阪アルカリに対して訴訟を起こすことになったのです。

訴訟の経過

訴訟は1903年に始まりました。大阪地方裁判所の第一審で、原告側が勝訴します。結果として、外村には55円、小作人たちには合計797円が支払われる決定が下されました。しかし大阪アルカリ側はそれを不服とし、控訴します。控訴審では、1903年当時の公害予防のための適切な措置が記録されているかが問われました。特に、大阪アルカリがその時点で予防措置を怠っていたかどうかが重要視されました。

1918年、大阪控訴院は、大阪アルカリが煙害防止のために取り組むべき措置を怠っていたとの判断を下し、原告に対する請求額が倍増しました。その結果、請求範囲の拡大により、外村には3151円を含む合計16811円の賠償金を支払うよう命じられました。大審院がこの判決を承認したため、大阪アルカリは敗訴が確定しました。

その後、第一次世界大戦後の経済不況により、大阪アルカリは経営危機に直面し、1926年に事業を整理して解散することとなります。事業は後に大日本人造肥料株式会社に引き継がれました。

事件の法的影響

この事件での大審院の判決は、故意に公害を引き起こしたかどうかではなく、適切な予防手段をとっていたかが重視されるべきであるとの見解を示しました。この判断は日本の公害裁判において、重要な前例となりました。特に、事件を通じて示された「予防措置の無視」は後の多くの公害訴訟に影響を与えることになります。

その後の訴訟でも、この事件の判決が引用されましたが、徐々に公害の発生そのものやその結果に対する違法性が重視されるようになり、現在では大阪アルカリ事件の影響自体が薄れているといえます。さらに、戦後の水俣病訴訟やスモン病訴訟では、被害の発生の有無が不法行為の認定に焦点が当てられました。

参考文献

• - 川井健『大阪アルカリ株式会社事件 －民法判例と時代思潮－』（1981年）

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