川井健

川井健（かわい たけし）

川井健は、1927年8月23日に広島市で生まれ、2013年5月15日に85歳で亡くなった日本の法学者です。民法を専門とし、特に債権法、物権法、不法行為法の分野で卓越した研究成果を上げました。一橋大学第11代学長、一橋大学名誉教授。位階は従三位。

生涯と業績

川井健は、教育者であった父、川井清一郎の影響を受け、法律の道に進みました。東京大学法学部を卒業後、北海道大学法学部教授を経て、1971年に一橋大学法学部に着任しました。当時の法学部では、民法の専任教員が好美清光教授のみという状況の中、島津一郎教授とともに迎えられました。1986年には、学長選考をめぐり学内で混乱が起こり、前学長の急逝という事態の中、一橋大学史上2人目となる一橋大学出身者ではない学長として選出され、1989年までその重責を担いました。

川井の学説の特徴は、複雑に分化した学説を整理し、本質的な対立点を見極める点にあります。彼は、実務を混乱させたり、学生を無用に迷わせるような、本質的でない学説の対立を批判し、空理空論がもたらす弊害を指摘しました。学説の結論や効果を考慮し、より実務に役立つ理論構築を目指したのです。

教育活動と門下生

川井は教育者としても優れており、多くの優秀な法学者や実務家を育てました。主な門下生には、元青山学院理事長の半田正夫、学習院大学教授の岡孝、横浜国立大学教授の高橋寿一、中央大学教授の本田純一、明治大学法科大学院教授の工藤祐巌などがいます。また、ゼミ生には元郵政事務次官・KDDI会長の五十嵐三津雄、弁護士の中村直人、中山ひとみ元第二東京弁護士会副会長などがおり、各界で活躍しています。

略歴

1944年：広島県立呉第二中学校（現・広島県立呉宮原高等学校）4年修了
1945年：陸軍士官学校予科卒業
1945年：陸軍航空士官学校中退（終戦による）
1949年：第六高等学校（現・岡山大学）卒業
1953年：東京大学法学部卒業
1956年：東京大学大学院研究奨学生修了
1956年：北海道大学法学部助教授
1962年：法学博士（東北大学）
1963年：北海道大学法学部教授
1969年：北海道大学評議員
1971年：一橋大学法学部教授
1979年：法務省法制審議会民法部会委員
1980年：一橋大学法学部長
1984年：一橋大学附属図書館長
1985年から1990年まで 放送大学客員教授
1986年：一橋大学学長事務取扱
1986年～1989年：一橋大学学長
1990年：国土庁土地鑑定委員会委員
1991年：一橋大学を定年退官、一橋大学名誉教授、創価大学法学部教授、弁護士登録
1992年：東京都収用委員会会長代理
1994年：帝京大学法学部教授
2003年：瑞宝重光章受章
2013年：死去、従三位

職歴

川井健は、日本私法学会理事、法制審議会民法部会委員、国土庁土地鑑定委員会委員、東京都収用委員会委員会長代理、防衛調達審議会会長、司法試験第二次試験考査委員、学術審議会科学研究費分科会専門委員、国民生活審議会臨時委員、建設省建設審議会委員、郵政省簡易生命保険郵便年金審査会委員、法務省民事行政審議会委員、大学入試センター評議員、東京家庭裁判所調停委員など、数多くの公職を歴任しました。

主な著書

川井健は、民法に関する多数の著書を執筆しました。以下に主なものを列挙します。

『ワークブック民法』（遠藤浩と共著）（有斐閣、1971年）
『担保物権法』（青林書院新社、1975年）
『設例民法学』（一粒社、1976年）
『消費者のための民法入門』（有斐閣、1977年）
『現代不法行為法研究』（日本評論社、1978年）
『製造物責任の研究』（日本評論社、1979年）
『無効の研究』（一粒社、1979年）
『欠陥商品と企業責任』（日本経済新聞社、1980年）
『設例民法学』（一粒社、1980年）
『民法判例と時代思潮』（日本評論社、1981年）
『民法入門〈総則編〉』（ぎょうせい、1982年）
『講義物権法・担保物権法』（篠塚昭次と共著）（青林書院、1982年）
『民法概論1 民法総則・第4版』（有斐閣、1995、第3版、2005年、第4版、2008年）
『民法概論2 物権・第2版』（有斐閣、1997、第2版、2005年）
『民法概論3 債権総論・第2版補訂版』（有斐閣、2002、第2版、2005年、第2版補訂版、2009年）
『民法概論4 債権各論』（有斐閣、2006年）
『民法概論5 親族・相続』（有斐閣、2007年）
『民法1 - 3』（勁草書房）我妻栄、有泉亨と共著 - ISBN 4-7527-0286-X
『はじめて学ぶ民法』（有斐閣、2011年）

川井健は、その卓越した研究業績と教育活動により、日本の法学界に多大な貢献をしました。

外部リンク

* 「川井健先生年譜」『一橋論叢』第107巻第1号、日本評論社、1992年1月、190-193頁、doi:10.15057/12459、hdl:10086/12459、ISSN 0018-2818。

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