大阪府の市町村歌一覧

大阪府の市町村歌概説

日本の都道府県の中で、大阪府は広島県や大分県などと共に、公式な都道府県民歌を制定していない数少ない府県の一つです。しかしながら、その一方で、府内に存在する市町村（三島郡島本町を除く）のほぼ全てが、独自の自治体歌、すなわち市町村歌やそれに準じる楽曲を制定しており、この制定率は全国的に見ても非常に高い水準にあります。

これらの自治体歌は、それぞれの地域の歴史や特色を反映し、住民に親しまれることを目指して作られてきました。その制定時期は多岐にわたり、古くは戦前から現在まで、様々な時代背景の中で多くの歌が生まれています。

制定の歴史的変遷

大阪府下で戦前から市歌を制定していたのは、大阪市、堺市、岸和田市、吹田市、泉大津市といった都市でした。第二次世界大戦後、特に1940年代後半から1950年代にかけて、多くの市で新たに市歌が制定され、地域の復興や発展と共に歌が定着していきました。高度経済成長期を経て、1980年代以降にも摂津市や四條畷市などが市歌を制定しています。さらに21世紀に入ってからも、大東市や交野市が市制の節目に市歌を新たに制定するなど、自治体歌を巡る動きは現在も続いています。町村部においても、田尻町が比較的早期に町歌を制定しており、阪南市のように町制施行時に制定した歌を市制移行後も引き継ぎ、市歌として改題して使用している例も見られます。

主要都市の歌

大阪市

大阪市の現在の市歌は、1921年（大正10年）に制定された「大阪市歌」です。堀沢周安が作詞、中田章が作曲を手がけました。この歌の詞と曲は、著作権の保護期間が満了しており、パブリックドメインとなっています。現在の市歌に先立っては、1903年（明治36年）に大阪朝日新聞によって選定・寄贈された「大阪市の歌」という楽曲も存在しました。

市歌の他にも、大阪市には市民に親しまれる歌が複数あります。例えば、1953年（昭和28年）発表の市民愛唱歌「陽はわかし」や、市制70周年を記念して1959年（昭和34年）に発表された「あなたの胸に わたしの胸に」などがあります。

また、大阪市の特徴として、一部の区で市歌とは別に区歌が制定されている点が挙げられます。例えば、生野区には「生野区民の歌」、旭区にはかつて「旭区創設二十周年頌歌」がありました。さらに、大阪市の多くの区では、盆踊りなどで踊られる区民音頭が作られており、地域の祭りやイベントで活用されています。都島区の「都島区民音頭」や中央区の「中央区民音頭」（作曲はキダ・タロー氏）など、各区に個性的な音頭が存在します。

堺市

堺市の市歌は、1958年（昭和33年）に市制70周年を記念して制定された「堺市民の歌」です。作詞は中川至誠、作曲は平井康三郎が担当しました。これは2代目の市歌にあたります。さらに、市制100周年を迎えた1989年（平成元年）には、作家の藤本義一氏が作詞、服部克久氏が作曲を手がけた記念歌「堺讃歌 風になれ」が発表されました。堺市の一部の区、例えば南区では、2012年（平成24年）に区のイメージソング「みなみく・ダイスキ ダイスキ!」が発表されるなど、区独自の歌も生まれています。

その他の市町村の歌と多様性

大阪府下の他の市町村でも、地域の個性や歴史を反映した様々な歌が制定されています。岸和田市のように、戦前から複数の市歌が存在し、戦後にも新たな讃歌が作られ、現在主に「岸和田市讃歌」が使用されている例や、吹田市、泉大津市のように戦前の歌から代替わりした例など、歴史的な変遷を持つ自治体もあります。

また、守口市や河内長野市、門真市、大阪狭山市の廃止された旧町歌では、詩人の安西冬衛氏が作詞を手がけており、著名な文化人が自治体歌制作に関わっていたことが伺えます。作曲家では、古関裕而氏（守口市歌）や、後にはキダ・タロー氏（四條畷市歌、中央区民音頭）、つんく♂氏（東大阪市市歌「東大阪めっちゃ元気な「まち」やねん」）といった幅広い分野で活躍する音楽家が自治体歌を手がけている点も特筆されます。

町村部では、前述の島本町を除き、能勢町、豊能町、忠岡町、熊取町、田尻町、岬町、太子町、河南町、千早赤阪村といった各町村が独自の町歌や村歌を制定しています。

廃止された自治体歌

市町村の合併や名称変更に伴い、過去に制定された自治体歌が廃止された例も存在します。例えば、堺市の初代市歌（1935年制定）、吹田市の初代市歌（1940年制定）、旧布施市歌（現在の東大阪市域）、旧豊能郡東能勢村歌（現在の豊能町）、旧南河内郡狭山町歌（現在の大阪狭山市）、旧南河内郡美原町町歌（現在の堺市美原区域）などがこれにあたります。これらの廃止された歌は、それぞれの自治体の歴史の一ページを物語る貴重な文化資料と言えるでしょう。

大阪府の市町村歌は、都道府県歌こそ持たないものの、地域に根ざした歌文化が非常に豊かであることを示しています。これらの歌は、地域の誇りや一体感を育み、住民の生活に寄り添う存在として、それぞれの歴史と共に歌い継がれています。

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