天井桟敷の吟遊詩人

ジェスロ・タルの1975年発表作品『天井桟敷の吟遊詩人』(原題:Minstrel in the Gallery)は、バンドにとって8作目のスタジオアルバムです。このアルバムは、バンドが所有する移動式スタジオ「メゾン・ルージュ・モービル」を用いて、モナコ・モンテカルロでレコーディングされました。ただし、オリジナルLPでは録音場所が「ヨーロッパのどこか」と曖昧に表記されています。

音楽性については、バンドの中心人物であるイアン・アンダーソン自身が「おそらくタルの中で最もアコースティック色の強いアルバム」と評しています。楽曲には、アンダーソン自身の離婚経験が反映されているとされる曲も含まれています。特に「一羽の白アヒル/010 =無」は、その心情を強く反映した作品として知られています。

本作のレコーディング終了間際、ベーシストのジェフリー・ハモンドは脱退を表明し、1975年11月の公演をもって音楽業界から引退しました。これはバンドにとって大きな転換期の一つとなりました。

商業的成功も収めています。イギリスでは6週間に渡り全英アルバムチャートにランクインし、最高位20位を記録しました。アメリカではBillboard 200で7位に達し、バンドにとって7作目の全米トップ10アルバムとなりました。さらに、タイトル曲である「天井桟敷の吟遊詩人」は、Billboard Hot 100で79位を記録しました。

批評家の評価も高く、オールミュージックのBruce Ederは5点満点中4点を付け、「『ジェラルドの汚れなき世界』以来となる、タルが特に芸術的な意味で成功を収め、精巧に作られたアルバム」と絶賛しています。また、「英国フォークの要素に富んでいる一方、『アクアラング』にも匹敵するハードロックを提示し、攻撃性は恐らく同アルバムをも凌ぐ」と、その音楽性の幅広さと高い完成度を評価しています。

2002年にはリマスターCDが発売され、ボーナス・トラックが追加収録されました。「サマーデイ・サンズ」はシングル「天井桟敷の吟遊詩人」のB面曲として知られ、「マーチ・ザ・マッド・サイエンティスト」と「パン・ダンス」は1976年発売のEP「Ring Out, Solstice Bells」からの収録です。

さらに2015年には、リリース40周年を記念した『ラ・グランデ・エディション』が発売されました。この豪華盤は、2枚組CDと2枚組DVDから構成され、CD2とDVD2には、1975年7月5日に行われたパリ公演のライブ音源と映像が収録されています。ファンにとって貴重な資料となっています。

収録曲は全てイアン・アンダーソンが作曲しており、代表曲である「天井桟敷の吟遊詩人」をはじめ、「ヴァルハラへの冷たい風」、「黒衣の踊り子」、「レクイエム」、「一羽の白アヒル/010 =無」、そして16分を超える大作「ベイカー・ストリートの女神」など、多彩な楽曲が収録されています。「ベイカー・ストリートの女神」は、複数の短い楽曲が繋がって構成されています。また、短いインストゥルメンタル曲「グレース」も収録されています。

参加ミュージシャンは、フルート、アコースティックギター'>[イアン・アンダーソン]、マーティン・バー(エレクトリックギター)、ジョン・エヴァン(ピアノ、オルガン)、ジェフリー・ハモンド(ベース、アコースティックベース)、バリモア・バーロウ(ドラムス、パーカッション)らが名を連ねています。オーケストラ・アレンジと指揮はデヴィッド・パーマーが担当し、複数の弦楽器奏者も参加しています。この豪華な布陣によって、アルバムの高い音楽性が実現しています。

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