ジェスロ・タル

ジェスロ・タル：フルートと進化を遂げたロックのパイオニア

ジェスロ・タルは、1960年代後半にイギリスで誕生したロックバンドです。6000万枚を超える世界セールスを誇り、プログレッシブ・ロックを代表するバンドとして、その名を知られています。特徴はなんといっても、リーダーであるイアン・アンダーソンが操るフルート。ロック音楽にフルートという楽器を持ち込んだ先駆者として、デビュー当時から独自の存在感を放っていました。

結成から初期の活躍

1967年、ブルースバンド出身のイアン・アンダーソンとグレン・コーニックを中心に結成されました。翌年、デビューアルバム『日曜日の印象』を発表。全英10位にランクインするなど、瞬く間に注目を集め、同年の『メロディ・メーカー』誌の人気投票ではビートルズに次ぐ2位を獲得する快挙を成し遂げました。

初期のジェスロ・タルは、ブルースロック色が濃厚でした。しかし、ジャズやブリティッシュ・トラッドといった要素も取り入れ、他のブルースロックバンドとは一線を画す独自のスタイルを確立していきます。デビュー直後にギタリストが脱退するというアクシデントに見舞われましたが、ローリング・ストーンズ制作のTV番組への出演を機に、ブラック・サバスのギタリストであるトニー・アイオミを一時的に迎え入れ、難局を乗り越えました。その後、新たなギタリスト、マーティン・バーを迎え、2作目のアルバム『スタンド・アップ』を発表。全英1位を獲得し、バンドの勢いを決定づけました。このアルバムでは、バッハの楽曲をアレンジしたインスト曲「ブーレ」も収録され、注目を集めました。

プログレッシブ・ロックへの進化と商業的成功

1970年代に入ると、ジェスロ・タルは音楽性をさらに拡大していきます。アルバム『ベネフィット』はアメリカでもヒットを記録し、トラフィックやテン・イヤーズ・アフターといった同時代のブリティッシュロックバンドと共に、世界的な成功を収めました。

この時期から、文学的な気品とリリシズム、そして毒々しいユーモアを融合させた、プログレッシブ・ロック色が強くなっていきます。代表作である『アクアラング』（1971年）は、英米両国のチャートでトップ10入りを果たし、アメリカツアーも大成功を収めました。『ジェラルドの汚れなき世界』（1972年）と『パッション・プレイ』（1973年）では、アルバム全体を1曲として構成するという大胆な試みを行い、全米1位を獲得。高い音楽性と、メンバー間の強い結束力が、この成功を支えていました。しかし、結成から10年頃を過ぎると、メンバーチェンジが活発になるようになります。

活動休止と再始動

1980年代以降も活動を続け、1987年のアルバム『クレスト・オブ・ア・ネイヴ』でグラミー賞を受賞するなど、音楽的な評価も高く維持しました。しかし、2011年には事実上の活動停止。2014年にイアン・アンダーソンがバンドの無期限停止を発表し、多くのファンに衝撃を与えました。

しかし、2017年、デビューアルバム『日曜日の印象』の50周年を記念して、再始動することが発表されました。新しいアルバム制作のためのツアー計画が発表され、2018年には新たなアルバムをリリース。約18年ぶりとなるオリジナルアルバム『ザ・ゼロット・ジーン』(2022年)の発表は、多くのファンにとって喜びとなりました。

ジェスロ・タルというバンド名と、イアン・アンダーソンのフルート

バンド名は、18世紀イギリスの農学者ジェスロ・タルに由来しています。ロンドンのクラブで演奏していた当時、継続して出演契約を得ることが難しかったため、バンド名を次々と変更して活動していたというエピソードがあります。現在のバンド名も、エージェントの思いつきで付けられたものですが、偶然にもその名で出演した際にクラブの支配人に気に入られ、そのまま定着することになりました。

イアン・アンダーソンがフルートを演奏するようになった経緯も興味深いです。当初はギタリストだった彼ですが、プロデューサーの意向でギターヒーローとして祭り上げられた他のメンバーにスポットライトを奪われまいと、他の楽器を演奏することを決意。楽器屋でヴァイオリンとフルートを比較した結果、フルートの方が容易だと聞き、フルートを選んだそうです。

日本での人気

日本では欧米に比べ知名度は低いものの、熱烈なファンも多く存在します。これまでに何度も来日公演を行い、2013年には『ジェラルドの汚れなき世界』の完全再現ライブも開催されました。

ジェスロ・タルは、その独特のサウンドと、時代と共に進化を遂げた音楽性によって、ロック史に大きな足跡を残したバンドと言えるでしょう。彼らの音楽は、これからも多くのリスナーを魅了し続けることでしょう。

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