天使のたまご

天使のたまご

『天使のたまご』は、1985年12月15日にリリースされた日本のアニメーションOVAで、押井守が原案、監督、脚本を手掛けた作品です。この71分の作品は、徳間書店から発売され、OVAとしては珍しく新宿東映ホールでの劇場公開も行われました。以後、2001年にはDVD版がパイオニアLDCより発売され、さらに2007年には再発、2013年にはBlu-ray版が登場しました。最近では、公開40周年を記念し、2025年に押井監督の監修による4Kリマスター版の発売が決定しています。

あらすじ

物語は、ノアの方舟が陸地を見つけられなかった異世界を舞台にしています。この世界は、巨大な眼球を模した機械仕掛けの太陽が海に沈むと共に夜を迎え、一切の時間が止まったかのように描かれています。

方舟の中では、全ての動物が化石となってしまった時、廃墟の街で少年と少女が出会います。少女は古びた卵を抱え、それが「天使のたまご」であると信じています。少年はその卵を割ることが中に何が入っているのか知る唯一の方法だと語ります。毎晩、街では魚の影が現れ、漁師たちはそれを狩るために魚突きに勤しみ、次第に街は水没していきます。

少女が深い眠りに入った時、少年は卵を打ち砕いてしまい、去って行くのですが、少女はその後を追います。彼女は水の中に落ち、そこに隠された真実を発見することになります。少年は再び孤独になり、海を眺める。そして、朝が訪れ、海から太陽が登り、新たな彫像として少女が現れるのです。少年はその彫像を見上げながら物語の幕を閉じます。

登場人物

少年

声は根津甚八。彼は十字架のような大きな武器を持ち、赤い戦車で街へと向かいます。鳥を追いかける中で、その過去の記憶を失った彼は、少女との出会いを通じて新たな視点を得ることになります。

少女

声は兵藤まこ。廃墟の街でガラス瓶を集める独りぼっちの少女で、卵を抱えて生きています。彼女は数十万年にもわたりその卵を育んでいます。

作品の背景

この作品の特徴は、ストーリー自体よりも視覚と感覚の表現に重きを置いている点です。押井は物語を重視せず、観客が卵の中に何が入っているのかに焦点を当てることを意図しました。旧約聖書のノアの方舟を独自に解釈した内容であり、作品内に散りばめられたシンボルやモチーフは聖書的な意義を持っています。例えば、魚は「言葉」を象徴し、鳥は「命」を意味するとされます。

制作背景

押井守は当初、軽妙な雰囲気で作品を描くことを考えていましたが、天野喜孝の絵を見た瞬間、その方針を変更し、よりファンタジー色の強い作品に仕上げました。シナリオの執筆にあたっては、作品に必要な言葉の重みや新しいイメージを強く意識しました。

音楽と音響

音楽は菅野由弘が手掛け、空間の音や水の音を効果的に織り交ぜて、物語の雰囲気を高めています。特に、ボーカルとピアノによる独特の音調が作品に深い感情的な色合いを与えています。

評価

当作品は、視覚芸術としてのアニメーションの新しい可能性を示しましたが、出口のない閉塞感や観客の理解を問う作品でもあり、初期反応は賛否が分かれました。後に多くの評論家から高い評価を受け、押井の代表作として位置づけられるようになります。

結論

『天使のたまご』は、ただの物語ではなく、さまざまな解釈の余地を残す象徴的な作品となっています。観客に深淵な視野を与えることで、アニメーションの新しい形を探求する作品といえるでしょう。

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