天山童姥

天山童姥：幼女の姿をした老女

天山童姥（てんざんどうぼ）は、金庸の武侠小説『天龍八部』に登場する、特異な存在感を放つ人物です。彼女は、内功の副作用により外見は10歳前後の少女のようでありながら、実際には96歳という高齢の老女です。「童姥」という呼び名は、その外見が童女でありながら、実年齢は老女であるという、二つの側面を併せ持つことに由来しています。

性格：苛烈さと情の深さ

天山童姥は、非常に苛烈な性格で毒舌家であり、怒りっぽい人物として描かれています。周囲の人間からは恐怖の対象とされており、機嫌が悪くなると、侍女を叱りつける前に丁寧な物腰で対応することがありました。そのため、彼女から罵詈雑言を浴びせられると、逆に喜ぶ者もいたほどです。彼女の跡を継いだ虚竹が敬語を使うたびに、霊鷲宮の者たちは恐ろしい罰が下されるのではないかと恐怖しました。

しかし、その一方で、情の深い一面も持ち合わせています。何十年も前の失恋を引きずっており、執着心を捨てるように助言されると怒り狂い、虚竹を破戒させようとしました。反面、男に捨てられた女性には慈悲を見せ、霊鷲宮で世話をするという一面も持っています。

生涯：歪んだ愛情と因縁

天山童姥は、若くして武術の稽古を始め、「八荒六合唯我独尊功」という至上の内功を修行しました。しかし、その副作用で体の成長が止まり、外見は10代前半のままになってしまいました。この幼児体型に強いコンプレックスを感じており、26歳の時に治療を試みましたが、妹弟子の李秋水の妨害により失敗しました。

20代の頃には、弟弟子の無崖子に恋をしましたが、外見が幼児のようであるため、その恋は実りませんでした。96歳になっても無崖子を愛しており、治療を妨害した李秋水を憎悪し、嫉妬の炎を燃やしていました。

功力を失っているところを、偶然にも同門の虚竹と出会い、李秋水との戦いに協力させました。その際、虚竹に武術を指導しています。70年以上にわたる李秋水との因縁に決着がつくと、虚竹に霊鷲宮の主となり、逍遥派の掌門として務め上げることを命じ、息を引き取りました。

武功：逍遥派の達人

天山童姥は、逍遥派に所属しており、その一番弟子です。逍遥派は武術だけでなく、医術などの幅広い学問も習得するため、天山童姥も医術に長けていました。物語に登場した時点では、卓越した武術と「生死符」という特殊な技を使い、36洞72島を恐怖で支配していました。

八荒六合唯我独尊功

天山童姥が修めた至上の内功です。作中では彼女のみが使用しており、虚竹には指導していません。この内功は、すさまじいまでの功力を得ることができますが、その一方で、体の成長が止まり、30年に一度若返るという副作用があります。若返ると、功力も6歳児程度に戻ってしまうため、非常に危険な状態となります。元の力を取り戻すためには、毎日修行を続け、生血を飲む必要があり、もし生血を飲むことができなければ、死に至るとされています。

生死符

「符」という名前が付いていますが、書面ではなく、無味無臭無色透明の暗器です。これを打ち込まれると、全身に耐え難いかゆみを感じ、年に1度薬を飲まなければ精神に異常をきたすほどの苦痛を感じます。36洞72島の武術家は、この生死符を打ち込まれているため、天山童姥に逆らうことができません。その正体は氷であり、内功を逆転させることで、手のひらで水を氷に変えて相手に打ち込みます。天山童姥から生死符を習得した虚竹は、その悪辣さから嫌い、作中では一度しか使用しませんでした。



天山童姥は、その特異な外見と内面のギャップ、そして数奇な運命が、読者に強い印象を与える人物です。彼女の複雑な人間関係や武術は、物語をより深く楽しむための重要な要素となっています。

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