虚竹

虚竹（こちく）

虚竹は、金庸の武俠小説『天龍八部』に登場する主人公の一人です。物語の中心人物である段誉、蕭峯と並び、物語を彩る重要な役割を担っています。多くの主要人物が少数民族であるなか、彼は例外的に中原で育った漢民族です。元は心優しい少林僧でしたが、数奇な運命に導かれ、還俗して虚竹子と名を改めます。物語の中盤以降に登場しますが、その存在感は他の主人公たちに引けを取りません。

性格

虚竹は、慈悲深く、少林寺を深く愛する人物です。霊鷲宮の主となった際、配下の武術家たちに最初に命じたことが「少林寺の者と争うな」であったことからも、その思いの強さがうかがえます。しかし、非常に流されやすい性格で、頼まれると断れないため、なし崩し的に災難に巻き込まれてしまうことが多々あります。

幼少期から少林寺という閉鎖的な世界で育ったため、世間知らずで純朴です。そのため、他人の悪意に無防備で騙されやすい一面も持ち合わせています。例えば、阿紫と初めて出会った際、彼女の悪辣な振る舞いに翻弄され、肉食を強いられてしまいました。

生涯

少林寺時代

虚竹は、少林寺の高僧である玄慈方丈と葉二娘の間に生まれました。しかし、玄慈を恨む蕭遠山によって誘拐され、少林寺に捨てられてしまいます。その結果、虚竹が24歳になるまで、実の親子であるにもかかわらず、玄慈と虚竹は互いに親子であることを知らずに毎日顔を合わせることになります。

この頃の虚竹は、武術の腕前は決して高くありませんでした。しかし、逍遙派の無崖子が死の間際に、虚竹の内力をすべて消し去り、代わりに自分の武功をすべて彼に譲り渡したことで、運命が大きく動き出します。これにより、虚竹はこれまで習得した少林寺の武芸を全て失うことになりますが、同時に無崖子が70年以上にわたり鍛え上げた莫大な内力を手に入れることになりました。

天山童姥との出会い

その後、義侠心から幼女を助けたところ、その少女が実は96歳になる霊鷲宮の主、天山童姥であることが判明します。天山童姥は、虚竹の師匠である無崖子の姉弟子にあたり、成り行きから虚竹は武功を失っていた天山童姥に協力することになります。およそ3ヶ月の間、天山童姥と李秋水の戦いに巻き込まれながら、天山童姥から逍遙派の武術を指導され、武術家として大きく成長を遂げます。また、執着心の強い天山童姥を諫めたことがきっかけで、少林寺の戒律である飲酒、肉食、淫戒をことごとく破らされることになります。虚竹は顔も知らない恋人を思いながらも、自ら戒律を破ってしまったことを認めざるを得なくなります。

天山童姥と李秋水の戦いが終わると、天山童姥は虚竹に無崖子の後を継いで逍遙派の掌門になること、そして自分の代わりに霊鷲宮の主になることを強要し、虚竹はやむなくこれを受け入れます。偶然、霊鷲宮に滞在していた段誉とは、互いに叶わぬ恋に苦しんでいるという共通点から意気投合し、義兄弟の契りを結びます。

少林寺破門後

逍遙派の掌門となったものの、少林寺への思いを捨てきれなかった虚竹は、一度は少林寺に戻りますが、数々の戒律を破ったこと、すでに逍遙派の掌門になっていたことが原因で破門されてしまいます。しかし、少林寺への恩を忘れたわけではなく、少林寺に仇をなそうとする丐幇、荘聚賢、星宿派らが攻めてきた際には、段誉、そして義兄弟となった蕭峯とともにこれを撃退するために戦い、星宿派の掌門である丁春秋を打ち破る活躍を見せます。この時、彼は「悪の限りを尽くした丁春秋が改心のために少林寺に入門し、毎日修行を受けることになるのに、本当に少林寺にいたい自分が破門されてしまうとは…」と嘆いています。

その後、段誉とともに西夏へ赴いた際、銀川公主と再会し、彼女こそが自分が恋焦がれていた少女だと知り、結婚します。遼との戦いを生き残ると、彼は霊鷲宮に戻り、その後の人生を過ごしました。

武功

少林寺時代は武術の腕前はそれほど高くありませんでしたが、無崖子の北冥神功によって、少林寺の武芸を消去され、逍遙派の莫大な内力を注入されます。虚竹は、残りの人生を全て修行に費やしても得られないほどの内力を得ながらも、むしろ少林寺の武術が失われたことを迷惑に思っていました。その後、師伯にあたる天山童姥から内力の使い方を指導され、さらに霊鷲宮の壁画から武術の腕前を大きく向上させます。

ただし、実戦経験が浅いのと、元々慈悲深い性格のため、殺人技の使用を躊躇する傾向があり、実力を十分に発揮できないことがあります。特に、生死符など残虐極まりない技については、師の仇である丁春秋に対して一度使用したのみです。

逍遙派は武術だけでなく、医術にも優れており、虚竹も入門後に医術に精通しました。金創薬などの調合から、眼球の移植手術なども習得しており、失明した阿紫の視力を回復させるなど、その医術は様々な場面で役立ちました。

天山折梅手（てんざんせつばいしゅ）

天山童姥から習った武芸です。3種の擒拿手と3種の掌法、計6つで構成されています。技の数自体は少ないですが、この6つを完璧に習得すれば、刀剣や暗器など、あらゆる武器に対抗することができると言われています。習得は非常に困難で、口訣などは内功がなければ発音できないようになっています。

天山六陽掌（てんざんろくようしょう）

天山童姥から習得した陽の気を使用する掌法です。非常に高い殺傷能力を持ち、天山童姥は虚竹の天山六陽掌によって李秋水を殺そうと計画していました。しかし、虚竹が拒否したため、童姥は生死符を解除するための方法だと偽って（実際には間違いではない）、この掌法を指導しました。この技は、陰の寒気を使用する生死符を解除する唯一の方法ですが、虚竹は李秋水に指摘されるまで、自分の使っている掌法が天山六陽掌であることに気づいていませんでした。

演じた俳優

虚竹を演じた俳優は、以下の通りです。

映画

フェリックス・ウォン：『新天龍八部』 香港 1977年
フランキー・ラム：『シスター・オブ・ドラゴン 天女武闘伝』（原題：新天龍八部之天山童姥） 香港 1994年

テレビドラマ

フェリックス・ウォン：『天龍八部』 TVB 香港 1982年
関禮傑：『天龍八部』 中国電視公司（CTV） 台湾 1991年
ルイス・ファン：『天龍八部』 TVB 香港 1997年
ガオ・フー：『天龍八部』 中央電視台（CCTV） 2003年 中国

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