天津甕星

天津甕星（あまつみかぼし）

天津甕星は、日本神話に登場する星の神です。別名を天香香背男（あめのかがせお）、香香背男（かがせお）とも呼ばれています。

概要

天津甕星は、『古事記』には登場せず、『日本書紀』の葦原中国平定の段でのみ言及されています。

『日本書紀』における記述

『日本書紀』によれば、経津主神（ふつぬしのかみ）と武甕槌命（たけみかづちのみこと）が、葦原中国の平定を進める中で、多くの鬼神を平定し、草や石までも従わせましたが、星の神である香香背男だけは最後まで服従しませんでした。そこで、倭文神（しとりがみ）である建葉槌命（たけはづちのみこと）が派遣され、懐柔を試みたことが記されています。

また、『日本書紀』の一書には、天津甕星は高天原にいた悪神であり、経津主神と武甕槌命が葦原中国平定に先立ち、まずこの神を誅伐すると記述されています。この記述では、天津甕星は別名が天香香背男であるとされています。

伝承

鹿島神宮や静神社の社伝によると、武甕槌命は香島の見目浦（現在の鹿島神宮の位置）に降り、磐座に坐しました。一方、天香香背男は常陸の大甕（現在の日立市大甕）を根拠地としており、建葉槌命は静の地（大甕から西方約20km）に陣を構えて対峙したとされています。建葉槌命が陣を構えた地は、茨城県那珂郡瓜連町の静神社であると伝えられています。

神名の解釈

「カガ（香々）」は「輝く」という意味を持ち、星が輝く様子を表していると考えられています。また、神名の「ミカ」は「厳（いか）」を意味するとする説もあり、天津甕星は神威の大きな星を示すと解釈されています。平田篤胤は、天津甕星を金星のことであるとしています。

星神信仰

星や月を神格化する信仰は世界各地に見られますが、日本神話においては、星神は服従させるべき「まつろわぬ神」として描かれています。これは、星神を信仰していた部族が、大和王権になかなか服従しなかったことを表しているという説があります。

祭神としての天津甕星

全国の星神社や星宮神社の多くは、天之御中主神、磐裂神、根裂神、経津主神を祀っていますが、愛知県名古屋市の星神社や星宮社など一部の神社では、天津甕星を祭神としています。

大甕神社と天津甕星

茨城県日立市の大甕神社は、建葉槌命を主祀神としています（一説には素戔嗚尊とも）。同神社伝によると、甕星香々背男（天津甕星）は、常陸国の大甕山に居を構え、東国を支配していたとされています。大甕神社の神域を成す宿魂石は、甕星香々背男が化したものと伝えられています。

その他の解釈

葦原中国平定で最後まで抵抗した神であることから、建御名方神と同一視されることもあります。また、神仏習合の考え方では、北極星を神格化した妙見菩薩の化身とされることもあります。

まとめ

天津甕星は、日本神話において特異な存在です。星の神として崇められる一方で、大和王権に抵抗する神としても描かれており、その神格や出自については、様々な解釈が存在します。星を神格化した信仰や、古代の部族の歴史を考察する上で、重要な手がかりとなる神と言えるでしょう。

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