天竜川バス転落事故

天竜川バス転落事故

天竜川バス転落事故は、昭和26年（1951年）7月15日に、現在の静岡県浜松市天竜区（当時の磐田郡浦川町）で発生した、国鉄バスによる重大な転落事故です。この事故では、増水し濁流となっていた天竜川へ旅客バスが転落し、多数の死者・行方不明者を出しました。

事故の背景

事故発生のきっかけとなったのは、この時期の気象条件でした。梅雨前線による長雨が続き、飯田線の浦川駅から佐久間駅にかけての区間が不通となっていました。これを受けて、日本国有鉄道（国鉄）は、鉄道が利用できない区間の代替輸送手段として、バスによる旅客輸送を行うことを決定しました。浦川駅で列車から乗り換えた乗客たちは、用意された2台の小型バスに分乗し、佐久間駅へと向かっていました。

事故発生の状況

悲劇が起こったのは、代替バスの1台が、現在の国道473号にあたる当時の県道を走行中、浦川町下川合地区の原田橋西側約100メートル手前のカーブに差し掛かった地点で発生しました。長雨で地盤が緩んでいたとみられる路肩が突如崩壊し、バスはそのまま約20メートルの崖下、増水した天竜川の濁流へと転落しました。

事故直後と捜索活動

バスは転落後、すぐに濁流に飲まれ流失しました。幸いにも、バスの運転手、運転助手、そして乗客のうち5名は事故現場から生還することができましたが、他の多くの乗客は激しい濁流に飲み込まれ、そのまま行方不明となりました。当初、28人前後が行方不明とされました。

事故発生後、大規模な捜索活動が開始されましたが、増水し流れの速い天竜川での捜索は困難を極めました。潜水夫による捜索も行われましたが、転落したバス車体を発見することすら叶わず、多くの行方不明者は濁流に流されたものと見られました。

車体の発見と死者数の不確実性

懸命な捜索にもかかわらず、バスの車体や多くの行方不明者は発見されないまま時間が経過しました。しかし、事故から約3年後の昭和29年（1954年）8月、天竜川で水泳中の地元の兄弟により、流失していたバス車体が偶然発見されました。引き上げられた車内からは人骨も見つかっています。

この事故において、最終的な正確な死者数を確定することは困難とされています。これは、代替バスゆえに正確な乗客数が把握されていなかったためです。公式な不明者数は28人前後とされていますが、資料によっては犠牲者数が30名以上、または33人に達すると記されているものもあり、正確な犠牲者数は特定されていません。

供養碑の建立

事故現場付近には、この悲惨な事故の犠牲者を追悼し、事故の記憶を留めるため、「供養之碑」が建立されています。

この天竜川バス転落事故は、戦後混乱期における交通インフラの脆弱性や、自然災害時の代替輸送における安全確保の課題を浮き彫りにした事例として、日本の交通事故史に記憶されています。

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