パンジャーブ語

パンジャーブ語とは

パンジャーブ語（パンジャービー語とも）は、インドとパキスタンにまたがるパンジャーブ地方で話されている言語です。インド・アーリア語派に属し、SOV型の語順を持つのが特徴です。南アジアにおいて、ヒンディー語、ベンガル語に次ぐ話者数を誇る重要な言語です。

分布

パンジャーブ語の話者は、主にパキスタン東部のパンジャーブ州に集中しており、パキスタン人口の約39%が母語としています。しかし、パキスタンでは公用語として認められていません。州都ラホールでも、パンジャーブ語は主に文芸雑誌や私信に用いられる程度で、ウルドゥー語や英語に比べると公的な地位は低いのが現状です。

一方、インドではパンジャーブ州の公用語であり、デリーでは第二公用語として認められています。また、インド連邦レベルでも憲法の第8付則に定められた22の指定言語の一つです。近隣のハリヤーナー州やヒマーチャル・プラデーシュ州にも話者が分布しています。

さらに、パンジャーブ語は在外インド人の主要言語の一つでもあります。カナダでは約43万人、イギリスでは約27万人の母語話者が確認されており、オーストラリアやアメリカ合衆国カリフォルニア州などにも分布しています。

パンジャーブ語はシク教において重要な言語であり、聖典『グル・グラント・サーヒブ』は主にこの言語で記述されています。

音声

パンジャーブ語の母音は、ヒンディー語と同様に短母音 /ə ɪ ʊ/ と長母音 /ɑ i u e ɛ o ɔ/ が存在します。また、各長母音に対応する鼻母音も存在します。

子音は、一般的なものに加え、外来語にのみ現れる /f z x ɣ/ などがあります。これらの音は、それぞれ /ph j kh g/ と区別されないこともあります。

パンジャーブ語の大きな特徴として、有声帯気音（gh, jh, ḍh, ṛh, dh, bh）の系列が語頭で無声無気音、語頭以外で有声無気音に変化し、その代償として声調が発達していることが挙げられます。/h/ も語頭以外では、一部の例外を除いて消滅し、声調に痕跡を残しています。一般的に、語頭に有声帯気音があった場合は低い声調、それ以外の箇所では先行する音節が高い声調になる傾向があります。

ヒンディー語では古い重子音が借用語以外では消滅し、その代わりに母音が長母音に変化していますが、パンジャーブ語では重子音がそのまま残っています。例えば、「老いた」を意味する単語は、パンジャーブ語で「buḍḍā」、ヒンディー語で「būṛhā」、サンスクリット語で「vr̥ddha」となります。

また、パンジャーブ語ではそり舌音である /ṇ ṛ ḷ/ が音素として確立しています。ヒンディー語では、/ṇ/ はサンスクリットからの借用語にのみ現れ、/ṛ/ は英語からの借用語を除いて /ḍ/ と相補分布をなします。ただし、パンジャーブ語でも東部方言では /ṇ/ と /n/、/ḷ/ と /l/ の区別が曖昧になることがあります。

方言

パンジャーブ語の方言区分は複雑で、どこまでを一つの言語として捉えるかについて議論があります。言語学者のグリアソンは、インド言語調査において、西パンジャーブ語を「ラフンダー語」という別の言語であると主張しました。

パティヤーラーにあるパンジャービ大学では、以下のように分類しています。

マージ語
ドゥアビ語
マールワーイー語
パワディ語
ドーグリー語

この中には、ドーグリー語のようにインド政府によって独立した言語として認められているものも含まれています。

一方、エスノローグの18版では、以下のように分類しています。

東パンジャーブ語：中央語群（ヒンディー語などを含む）のパンジャーブ語群に含める。
西パンジャーブ語、ヒンドコ語、サライキ語：北西語群（シンド語やダルド語群を含む）のラフンダー語に含める。
ドーグリー語、カーングリー語：インド語派北部語群の西パハール語群に含める。

エスノローグの分類はグリアソンの分類を基にしているように見えますが、エスノローグが指す西パンジャーブ語はパキスタンのパンジャーブ語に限定されており、実際にはインドの東パンジャーブ語との違いは小さいとされています（サライキ語との違いはより大きい）。

表記

パンジャーブ語の表記には、地域によって異なる文字が用いられます。

パキスタンでは、ナスタアリーク体をベースにしたアラビア文字であるシャームキー文字（シャー・ムキー体）が使用されます。

インドでは、シャーラダー文字の系統であるグルムキー文字が用いられます。パンジャーブ州以外の地域では、デーヴァナーガリー文字が使用されることもあります。

まとめ

パンジャーブ語は、その豊かな歴史と文化を持つ重要な言語です。複雑な音声体系、多様な方言、そして複数の表記法を持つこの言語を学ぶことは、南アジアの文化や歴史を理解する上で非常に有益でしょう。

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