太気拳

太気拳は、1947年に武道家・澤井健一によって創始された武術であり、正式名称を太氣至誠拳法といいます。澤井は、中国において意拳の創始者である王向斉の唯一の外国人直弟子として、その奥義を学びました。帰国後、王の許可を得て日本で武術を普及するにあたり、自身の流派を「太気至誠拳法」、通称「太気拳」と名付けました。この名称は、山岡鉄舟の言葉「至誠天に通ず」に由来しています。

太気拳は意拳の流れを汲み、伝統的な武術に見られる套路（型）は存在しません。稽古の中心は、「立禅」「這い」「揺り」「練り」といった基本動作と、二人で行う推手、そして自由組手です。また、袋竹刀を用いた剣術や、相手に掴まれた手を瞬時に外す「逆手」といった技術も練習に取り入れられています。

澤井自身は柔道経験者であり、その影響からか門下生に寝技を指導したり、意拳のルーツである形意拳の基本技である五行拳を教えることもあったとされています。太気拳の練習体系は、その斬新さと合理性から、多くの武道家、武術家、格闘家から高い評価を得ています。

澤井は極真会館の創始者である大山倍達と親交が深く、かつては極真会館と太気拳の間で活発な交流組手が行われていました。初期の極真空手の構えには、太気拳の影響が見られるとも言われています。また、太気拳の門下生の中には、極真会館出身者が少なくありません。澤井が亡くなった現在では、娘婿である佐藤嘉道をはじめとする各師範が各地で指導にあたっています。

漫画家の板垣恵介が、太気拳の道場に取材を申し込んだ際のエピソードがあります。道場主との立ち合いを求められ、全く歯が立たなかったそうです。防御態勢をとっているにもかかわらず、見えない攻撃を受け、降伏せざるを得なかったとのことです。後日、この話を合気道の塩田剛三にしたところ、最初は笑われたものの、後に弟子を通じて叱責されたという逸話も残っています。この経験から、板垣は中国拳法の真髄を実感し、「澤井健一に「じゃあ、やろうか」と言われたらどうするんだ!?」と恐れたそうです。

太気拳の主な師範としては、以下の人物が挙げられます。

十段範士: 岩間統正
七段教士: 佐藤嘉道、ヤン・カレンバッハ、高木康嗣
七段練士: 盧山初雄
六段練士: 齋藤昭
* 五段練士: 佐藤聖二、島田道男、守田岳志、天野敏、久保勇人、鹿志村英雄、内村匡人など。

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