太陽の子

太陽の子（てだのふあ）

作品概要

灰谷健次郎による長編小説『太陽の子』（てだのふあ）は、1978年に理論社より刊行され、その後新潮文庫、角川文庫と版を重ねる児童文学作品です。太平洋戦争終戦後30年、神戸を舞台に、沖縄出身の両親を持つ小学6年生の少女・ふうちゃんが、精神を病んだ父親を通して、沖縄戦や沖縄出身者の苦悩、アイデンティティといった問題に向き合っていく物語です。物語のタイトルである「てだのふあ」は、沖縄の方言です。

あらすじ

神戸の下町にある沖縄料理店「てだのふあ・おきなわ亭」で暮らすふうちゃんは、沖縄出身の両親と、沖縄出身の常連客たちに囲まれながら成長していました。しかし、ある日、父親が精神を病んでしまいます。父親の異常な言動を通して、ふうちゃんは沖縄戦や、沖縄出身者たちが抱える苦しみを知ることになります。

沖縄出身の少年・キヨシとの出会い、そして、戦争で子どもを亡くした常連客・ろくさんとの交流を通して、ふうちゃんは沖縄の歴史と向き合います。しかし、沖縄戦の残酷な現実を知ったふうちゃんは、嘔吐してしまいます。さらに、ふうちゃんはキヨシが差別的な扱いを受けていることを知り、自身のアイデンティティについて深く悩み始めます。

ふうちゃんは入院中、父親が不審な行動をとっていることを知り、その原因を探るため、母や父親の友人と共に明石の海岸を訪れます。そこで、父親が少年時代に沖縄で経験した戦争の記憶が、現在の精神状態に繋がっていることを知ります。

一方、キヨシもまた、自身の姉の自殺や、母との複雑な関係に苦しんでいました。キヨシは不良グループとのトラブルに巻き込まれ、重傷を負ってしまいます。しかし、警察の事情聴取の際に、ろくさんの証言が、戦争の悲劇と差別構造の根深さを改めて浮き彫りにします。

ふうちゃんの卒業とキヨシの退院を機に、ふうちゃん一家は父親の故郷である波照間島への旅行を計画しますが、出発前夜に父親は亡くなってしまいます。物語は、ふうちゃんとキヨシが、最初に父親が精神を病んだ場所を訪れる場面で幕を閉じます。

登場人物

ふうちゃん: 物語の主人公。沖縄出身の両親を持つ小学6年生の少女。
父親: ふうちゃんの父。沖縄戦を経験し、戦争のトラウマを抱えている。
母親: ふうちゃんの母。「おきなわ亭」を切り盛りする明るい女性。
オジやん: ふうちゃんの母の遠戚。沖縄料理店の常連客の「長老格」。
ゴロちゃん: 父親の親友。
ギッチョンチョン: 沖縄出身の青年。沖縄への差別や蔑視に怒りを燃やす。
ろくさん: 沖縄戦で左腕を失った溶接工。戦争の悲劇を深く心に刻んでいる。
ギンちゃん: 神戸生まれの艀乗り。沖縄料理通だが、沖縄出身者に対して差別的な発言をすることもある。
梶山先生: ふうちゃんの担任教師。生徒たちの歴史学習を支援する。
キヨシ: 沖縄出身の少年。姉の死や母との関係に苦しんでいる。

作品の特徴

『太陽の子』は、沖縄戦の悲劇や、沖縄出身者たちが抱える差別や偏見を、繊細かつリアルに描いています。関西弁をベースとした会話や、登場人物たちの心情が詳細に綴られた手紙など、物語に深みを与えています。また、戦争の傷跡が、次の世代にも受け継がれていく様子も克明に描写されています。

映画、ドラマ、舞台

『太陽の子』は、1980年に浦山桐郎監督により映画化され、1979年と1982年にはテレビドラマ化もされています。さらに、舞台劇としても数々の公演実績があり、2019年にはミュージカルとして上演されるなど、幅広いメディアで作品の世界観が表現されています。

批評

『太陽の子』は、児童文学でありながらも、戦争や差別といった重いテーマを扱っているため、様々な評価を受けてきました。大江健三郎、清水真砂子、黒古一夫など、多くの批評家が作品について論じており、その評価は多岐に渡っています。

まとめ

『太陽の子』は、戦争の悲劇、沖縄出身者への差別、アイデンティティの葛藤など、多くの重要なテーマを織り交ぜた傑作です。戦争体験者の心の傷や、その傷が次の世代に与える影響について、深く考えさせられる作品となっています。その繊細な描写と、登場人物たちの生き様は、多くの読者の心に深く刻まれることでしょう。

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