夷狄の商舶往還の法度

夷狄の商舶往還の法度

16世紀において、渡島半島のアイヌ民族間で結ばれた重要な講和が「夷狄の商舶往還の法度」です。この法度は、アイヌの首長であるチコモタインとハシタインが、松前大館の城主である蠣崎季広の立ち会いのもとで取り決めました。

当時、チコモタインはシリウチ地域に住み、ハシタインは半島の西側セタナイ地域に居住していました。蠣崎季広は、この合意の中でアイヌの首長に財宝を分け与えたとされ、これによって彼は神位得位と称されることになります。この講和の具体的な内容は、両者の間に新たな交易のルールを確立するものでした。

講和の際、チコモタインは「東夷尹」、ハシタインは「西夷尹」と称され、彼らはそれぞれ東と西のアイヌの首長として認識されました。特にハシタインは、蠣崎氏の拠点である上ノ国（天河）への移住を果たしています。さらに、アイヌ民族は交易の中での位置付けや関与の仕方についても明確な合意を得ました。

この法度によって、蠣崎季広は他国の商人との取引において徴収する関銭の一部をチコモタインとハシタインに支払うことが定められました。また、シリウチから天河にかけての地域は蝦夷地とし、日本人の出入りが制限され、松前と天河地域は和人地としてアイヌの出入りが許可されることが決まりました。

さらに、シリウチの沖や天河の沖を船が通過する際には、帆を下げて一礼するという礼儀も設けられました。このような規定は、アイヌ民族が交易を行う中で安全性を確保するための重要な取り決めと考えられています。歴史家の大石直正はこの合意を中世の瀬戸内海における「海関」との類似性をもって捉え、交易の安定を図るための取り引きであったとしています。

この「夷狄の商舶往還の法度」は、アイヌ民族の歴史において重要な地点となっており、彼らが和人との関係を築いていく過程を示しています。アイヌと和人との交易は、その後の歴史的発展に大きな影響を与え、地域経済の動向にも寄与しました。この法度は、アイヌ民族自身が他民族とどのように関与し、影響力を持っていたかを示す重要な証拠といえるでしょう。

参考文献

• - 榎本進『アイヌ民族の歴史』草風館、2007年
• - 工藤大輔「アイヌ民族の戦いにおける「北の武士団」』清文堂出版、2007年
• - 新藤透『松前景広『新羅之記録』の史料的研究』思文閣出版、2009年
• - 海保嶺夫『エゾの歴史』講談社、1996年
• - 小林清治「大名権力の形成」東京大学出版会、1978年

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