奈良育英学校

奈良の教育史において、「奈良育英」という名を持つ学校は、二つの異なる時期にその存在を刻んでいます。

最初にその名を冠したのは、「奈良育英学校」です。時は明治39年（1906年）、奈良基督教会創建に深く関わった聖公会信徒、玉置格氏の尽力により、この学校は産声を上げました。設立の目的は、女子師範学校への進学を目指す女性たちに学びの機会を提供すること。学校は、創建時の奈良基督教会と同じ花芝町の敷地に位置し、旧教会堂を校舎として利用するなど、教会を母体とした運営が行われていました。

県内の女子教育に一定の貢献を果たしたものの、時代の流れには逆らえませんでした。大正期に入り、奈良県内で女子師範学校を廃止しようという動きが持ち上がると、その影響を受けて生徒数は瞬く間に減少。結果として、大正3年（1914年）頃、最初の奈良育英学校はその歴史に幕を下ろすこととなりました。

しかし、その由緒ある学び舎の跡地をこのままにしておくのは惜しいと考えた人々がいました。日本聖公会奈良基督教会の吉村大次郎牧師は、敬虔なキリスト教徒であり、当時、県議会議員に当選したばかりの藤井高蔵氏に、この場所の有効活用について相談を持ちかけます。この相談に、夫である高蔵氏以上に熱心に応じたのが、妻のショウ氏でした。

高蔵氏は法律家を目指し、その後ジャーナリストから地方政治家へと転身した人物ですが、ショウ氏はもともと教職を志しており、故郷である大分高等女学校や、かつて奈良にあった高等女学校での教師経験を持っていました。とりわけ、女子教育に対するその情熱は並々ならぬものがあったのです。

吉村牧師と藤井夫妻、特にショウ氏の強い思いが形となり、大正5年（1916年）4月17日、奈良市花芝町の同じ地で、新たな学び舎が誕生しました。これが「私立育英女学校」です。藤井高蔵、ショウ夫妻が創設者となり、再びこの地に学校の灯がともされました。

この私立育英女学校の流れが、現在の学校法人奈良育英学園へと引き継がれています。同法人は現在、二つの学校を運営しています。一つは奈良育英中学校・高等学校で、こちらは特定の宗派に基づかない教育を行う非ミッションスクールです。もう一つは育英西中学校・高等学校で、こちらはプロテスタント系のミッションスクールとして運営されています。ただし、この育英西中高は、最初の奈良育英学校やその設立母体であった奈良基督教会が属していた日本聖公会系ではありません。

このように、「奈良育英」の名は、聖公会系の女子師範予備校として始まった歴史と、その地で女子教育への情熱を燃やした夫妻によって再興され、現在の学園へと発展した二つの系譜の上に成り立っていると言えるでしょう。奈良基督教会など、設立にまつわる様々な存在が、この歴史を彩っています。

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