奈良電気鉄道クハボ650形電車

奈良電気鉄道クハボ650形電車

奈良電気鉄道クハボ650形電車は、奈良電気鉄道（奈良電）が戦時中に導入した異色の増結用制御車です。3両のみ製造され、その短い生涯の中で様々な変遷を遂げました。

概要

1942年、木南車輌製造にてクハボ651 - 653の3両が製造されました。当時、奈良電ではクハボ600形を導入していましたが、2扉構造で観光電車的な性格が強く、急増する輸送需要に対応しきれませんでした。そこで、ラッシュ時の乗降に適した3扉構造の制御車を新造することになりました。

しかし、大手車両メーカーは国鉄や軍需向けの生産で手一杯だったため、新興メーカーであった木南車輌製造に発注されることとなりました。

車体

車体長17,000mm、全長17,700mm、車体幅2,540mm、最大幅2,600mmという、17m級の半鋼製車体です。クハボ600形よりはやや短く、連結相手となるデハボ1000形よりはやや長いサイズでした。

窓配置はdD(1)4D(1)3(1)D1あるいは1D(1)3(1)D4(1)Dd（d：乗務員扉、D：客用扉、(1)：戸袋窓、数字：窓数）で、京都寄りにのみ運転台がある片運転台構造です。側窓は2段上昇式、客用扉は手動で幅1,060mmと、連結相手のデハボ1000形に合わせた仕様でした。

外観は、溶接を多用してリベットを減らし、長柱を用いて雨樋を省略した張り上げ屋根構造が特徴的でした。客用扉上部には水切りが設置され、雨天時の乗降に配慮されていました。このデザインは、同時期に木南車輌製造が製造した一連の私鉄向け車両に共通するもので、「木南スタイル」と呼ばれました。運転台側は貫通扉のない3枚窓、連結面側は貫通路付きという構造でした。

座席はロングシートで、内装は戦時下ということもあり簡素なものでした。

主要機器

制御器は、連結相手のデハボ1000形との総括制御のため、東洋電機製造製ES形主幹制御器を搭載しました。集電装置は、制御車ながら東洋電機製造製菱枠パンタグラフを京都寄りに1基搭載していました。

台車は、木南車輌製造K-16と呼ばれるボールドウィンA形台車のデッドコピー品を装着していました。これは、南海鉄道がモハ1201形用に各社に製造させていた台車の、孫コピー品に相当します。

ブレーキは、日本エヤーブレーキ製M三動弁によるACM自動空気ブレーキを搭載していました。

運用とその後

新造以来、奈良電の主力車として活躍しましたが、戦時設計による粗製濫造の傾向から、1950年頃に客用扉の自動化が行われました。1960年代には車体更新工事が実施され、特徴的な張り上げ屋根は通常の雨樋付き構造に改められ、木南スタイルは失われました。

1963年の近畿日本鉄道への合併時に、ク590形591 - 593に改番され、パンタグラフが撤去されました。1969年の京都線昇圧時には、ク300形305 - 307に再改番され、機器の更新が行われました。前照灯はシールドビーム2灯式に改造され、台車はモ430形（旧デハボ1000形）の廃車発生品である住友製鋼所84A-34-BC3に交換されました。

昇圧後も1970年代まで使用されましたが、車体更新後も木工の細工や材質、部品の材質などに問題が残り、老朽化も進行したため、1975年から毎年1両ずつ廃車され、1977年に全車廃車解体となりました。現存車両はありません。

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