奈良電気鉄道デハボ1350形電車

奈良電気鉄道デハボ1350形電車

奈良電気鉄道デハボ1350形電車は、1957年に3両（デハボ1351 - 1353）が製造された電車です。奈良電初のWNドライブ車であるデハボ1200形をベースに、特急増発に対応するために導入されました。

概要

1950年代後半、奈良電気鉄道（奈良電）は、京阪電気鉄道と近畿日本鉄道という二大株主の勢力争いに翻弄され、経営状況は悪化の一途を辿っていました。しかし、1954年に導入されたデハボ1200形による特急運転は、奈良電にとって数少ない光明でした。阪神電気鉄道に次ぐ高速運転と優れた車内設備が好評を博し、旅客数増加に大きく貢献したのです。

1957年4月のダイヤ改正で特急が増発されることになり、車両が不足しました。しかし、当時の奈良電は財政的に厳しく、高価なWNドライブ車であるデハボ1200形を増備する余裕はありませんでした。そこで苦肉の策として、在来車から捻出された旧式の機器を、デハボ1200形と同一設計の車体に搭載した、折衷型の準新車を導入することにしたのです。それがデハボ1350形でした。

車体

デハボ1350形の車体は、デハボ1200形と同一の18m級両運転台構造です。ナニワ工機独特の準張殻構造による軽量設計が採用され、窓配置はd(1)D6D(1)dとなっています。客用扉は片引き戸、扉間には広窓が並び、窓下には補強用のウィンドウシルが貼り付けられています。車内は、窓間隔に合わせて固定クロスシートが対向配置され、主電動機点検蓋の設置位置にはロングシートが設けられた、セミクロスシートの座席配置となっています。通風器はガーランド式で、車内には扇風機が設置されています。塗装は、当時の奈良電標準色であるクリームとダークグリーンのツートンカラーでした。

主要機器

デハボ1350形には、在来車から捻出された旧式の機器が搭載されました。デハボ1351・1352はデハボ1000形、デハボ1353はデハボ1100形1101が供出元です。そのため、台車と主電動機は、デハボ1351・1352とデハボ1353で異なっています。

主電動機
デハボ1351・1352：東洋電機製造TDK-520S（75kW）
デハボ1353：東洋電機製造TDK-553/2BM（90kW）

制御器
東洋電機製造ES-155-A電動カム軸式制御器

集電装置
東洋電機製造PT-35S菱枠パンタグラフ

台車
デハボ1351・1352：住友製鋼所84A-34-BC3
デハボ1353：扶桑金属工業KS-33L

ブレーキ
AMM自動空気ブレーキ（Mブレーキ）

運用

主電動機の性能差から、デハボ1351・1352とデハボ1353は運転曲線が異なり、運用上は別々に取り扱われました。デハボ1351+デハボ1352と、デハボ1353+クハボ701の2編成が組まれ、特急・急行運用に投入されました。また、本形式は多段電動カム軸式自動加速制御器を搭載していたため、京阪線乗り入れ運用にも充当されました。

奈良電が近畿日本鉄道に合併される前には、近鉄の車両に準じたマルーンに窓下銀帯1本の塗装に変更され、合併後にはモ690形691 - 693に改番されました。

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