奥敦世英

奥敦世英（おくとん せいえい）は、金朝末期からモンゴル帝国初期にかけて活躍した人物です。女真族出身であり、完顔部などの「白号姓」とは異なる「黒号姓」の奥屯部出身でした。史秉直や劉伯林らと並び、旧金朝統治下の人間としては最も早くモンゴル帝国に帰順したことで知られています。

生涯

奥敦世英の一族は代々金朝に仕えてきました。金朝末期には淄州刺史に任じられていました。1213年、モンゴル軍が山東地方に進出すると、奥敦世英は淄州の民を率いて弟の奥敦保和とともにモンゴル軍に投降しました。1214年にモンゴルと金朝の間で和平が結ばれると、奥敦世英の一団はモンゴル軍に従って北方モンゴル高原方面へ移住しました。

奥敦世英は武略に優れていたため、金朝の中都（大興府）とモンゴル高原を結ぶ要衝である徳興府に万人隊長（万戸）として移住しました。当時、華北ではモンゴル軍主力が引き上げた隙をついて、金将の苗道潤が山西地方を回復しようと軍を進めていました。奥敦世英はこれと戦い、苗道潤軍を撃退する功績を挙げました。

戦後、奥敦世英が捕虜とした敵兵を殺そうとした際、その母親から「お前は華族でありながら死を恐れてモンゴルに投降した。それなのに、どうして彼らを殺すことに心が痛まないのか」と責められたため、捕虜を殺すのをやめたという逸話が残っています。奥敦世英の出身地である淄州では、モンゴル軍に徹底抗戦して戦死した人々も多数いました。そのため、モンゴルに投降して生き延びた奥敦世英の一族は、後ろめたさを感じていたようです。その後、奥敦世英は数騎を従えて定襄を訪れましたが、間もなく陣没しました。

死後

奥敦世英の死後、弟の奥敦保和が跡を継ぎました。奥敦保和は、モンゴルへの投降時から兄と行動を共にしており、万戸から「昭勇大将軍・徳興府元帥」に進み、さらに「雄州総管」となりました。その後、元帥として真定・保定・順徳の諸道を領しましたが、56歳で引退しました。

奥敦保和には、奥敦希愷、奥敦希元、奥敦希魯、奥敦希尹という4人の息子がいました。彼らもそれぞれモンゴル帝国に仕え、一族は繁栄を続けました。

参考文献

井ノ崎隆興「蒙古朝治下における漢人世侯 : 河朔地区と山東地区の二つの型」『史林』37号、1954年
愛宕松男『東洋史学論集　4巻』三一書房、1988年
池内功「モンゴルの金国経略と漢人世候の成立-2-」『四国学院大学論集』46、1980年
松浦茂「金代女真氏族の構成について」『東洋史研究』36、1978年
* 『元史』巻151列伝38奥敦世英伝

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