奥村武博

奥村 武博

経歴

1979年7月17日、岐阜県多治見市に生まれた奥村武博氏は、元プロ野球選手の投手であり、現在は公認会計士、そして株式会社スポカチの創業者・代表取締役として活躍しています。

プロ入りまでの道のり

野球との出会いは、実父がコーチを務めていた少年野球チームでした。内野と投手を経験した後、地元の公立高校への進学を考えていましたが、中学時代のチームメイトからの誘いをきっかけに、岐阜県立土岐商業高等学校の経理科に進学しました。この進路変更は、甲子園経験のある監督が土岐商業にいたことが大きな理由でした。高校ではエースとして活躍しましたが、春夏ともに甲子園出場は叶いませんでした。3年生の夏、県大会決勝まで進んだものの、石原慶幸氏を擁する岐阜商業高校に敗れています。

土岐商業野球部では、公式戦に出場するためには日商簿記検定2級の取得が必須条件でした。奥村氏は「試合に出たい」という強い思いから簿記の勉強に励み、1年生で3級、2年生で2級に合格しました。この経験が、後にプロ野球引退後の公認会計士への挑戦へと繋がったと本人は語っています。

1997年のNPBドラフト会議で、阪神タイガースから6位指名を受けました。当時、JR東海への入社が内定していましたが、幼い頃からの夢だったプロ野球選手への道を諦めきれず、両親を説得して入団を決意しました。

阪神タイガース時代

プロ入り後、1998年にはウエスタン・リーグで登板しましたが、右肘痛を発症し手術を受けました。1999年にはルーキーだった藤川球児氏の教育係を務め、「おっくん」という愛称で親しまれましたが、リハビリのため実戦登板は限られました。しかし、秋季キャンプでは当時監督に就任したばかりの野村克也氏から強化選手に指名されるなど期待も集めました。2000年には春季キャンプから一軍に帯同しオープン戦にも出場しましたが、公式戦開幕前に脇腹を疲労骨折。再びリハビリに専念する期間となりました。結局、一軍公式戦への出場機会を得られないまま、2001年シーズン終了後に戦力外通告を受け現役を引退しました。

プロ野球引退後の転身

現役引退後も野球への未練から、2002年は打撃投手として阪神に在籍しつつ、トライアウト参加などで他球団での現役復帰を模索しましたが、オファーは得られませんでした。プロ野球界を完全に離れた後は、友人とバーを経営しましたが撤退。その後、飲食店開業を目指してホテルの調理場でアルバイトを経験しました。この期間に、元プロ野球選手という経歴を伏せて働く中で社会の厳しさを痛感し、他の道を探し始めました。

高校時代の簿記の知識を活かせる公認会計士という職業に注目し、当時受験資格が問われなかったことから挑戦を決意します。しかし、実務経験を積める会計事務所には採用されず、様々なアルバイトをしながら独学で勉強を続けました。2007年からは公認会計士予備校TACに入社し、働きながら学習を進めます。試験には苦戦を強いられましたが、9回目の挑戦となる2013年に短答式・論文式試験に合格。プロ野球選手出身者として初めて公認会計士となった人物とされています（後に池田駿氏も合格）。

公認会計士としての活動と新たな挑戦

合格後、実務要件を満たすため監査法人に勤務し、2017年の公認会計士登録を経て、株式会社・税理士法人オフィス921のスーパーバイザーに就任。日本初のプロ野球出身公認会計士として各種メディアに登場し、自身の著書『高卒元プロ野球選手が公認会計士になった!』も刊行しました。また、日本公認会計士協会の準会員会幹事も務めています。

2015年には母校・土岐商業高校での講演を機に、学生野球資格回復制度を通じて指導資格を取得。高校や大学の硬式野球部での指導が可能となりました。

2017年には一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構の理事に就任。現役アスリートが競技人生と並行して人間的な成長や将来のキャリア形成を目指す「デュアルキャリア」の普及・啓発活動に尽力し、多くのアスリートをサポートしています。2019年には株式会社スポカチを創業し、スポーツチームの運営支援やコンサルティング事業を展開。さらに、日本障がい者サッカー連盟や全国野球振興会の監事も務めるなど、多岐にわたる分野でスポーツ界に貢献しています。

人物・エピソード

現役時代の奥村氏は、188cmの長身から投げ下ろすボールと正確な制球力が武器でした。2000年にはその制球力を買われ、「小山2世」と呼ばれたこともあります。

金銭感覚に関しては、プロ野球入団後に年俸を短期間で使い果たしたり、タニマチとの交際で散財したりした経験を赤裸々に語っています。この経験は、戦力外通告を受けた22歳で貯金がゼロになっていたという厳しい現実につながりました。国民健康保険料の支払いにも困窮した時期に公的資格を知ったことが、公認会計士を目指すきっかけの一つです。自身の苦い経験を「現役アスリートへの反面教師」として活かし、現在は財務の視点からアスリートのセカンドキャリアや独立リーグのサポートにも取り組んでいます。

公認会計士試験の勉強法では、論文式試験で苦戦した際、現役時代の投球練習で培った「明確な意図を持って取り組む」姿勢を応用。試験時間から逆算し、解答のスピードと正確性を意識するスタイルに変更したことが合格に繋がったと振り返っています。

野球を通じて培われた礼儀や人間関係、目標達成への努力といった経験は、公認会計士や実業家としての現在の活動にも活かされています。

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