奥村綱雄

奥村綱雄：野村證券中興の祖、昭和期の巨人実業家

奥村綱雄(1903年-1972年)は、20世紀日本の経済界を代表する実業家の一人であり、野村證券の社長・会長として、同社の発展に多大な貢献を果たしました。信楽焼の窯元を営む家に生まれた彼は、幼少期に大阪へ移住し、その後、大阪高等商業学校、京都帝国大学経済学部と進学。1926年、野村證券に入社し、その後の日本の資本市場を大きく変えるキャリアを歩み始めます。

野村證券入社後は着実にキャリアを積み重ね、満州視察団への参加や取締役就任を経て、第二次世界大戦後の混乱期に、公職追放によって経営陣が退陣する中、1947年には専務、翌年には第3代社長に就任。戦後復興期の日本の経済状況下、彼は並外れた手腕を発揮しました。

特に重要な功績の一つが、連合国との交渉を通じて1951年に実現させた証券投資信託法の制定と、委託会社の免許取得です。これは、戦後の財閥解体政策の中で「野村」の社名と事業基盤を守る上で決定的な役割を果たしました。この成功は、彼の優れた交渉力と政治的洞察力の証左と言えるでしょう。

社長在任中は、企業経営に関する独自の哲学を確立し、それを実践しました。彼の有名な言葉「ダイヤモンドは、中央の面をかこみ、多くの面が多角的に集まって底知れぬ光を放つ。会社経営もまたかくありたい。一人の独裁でもいけないし、悪平等でもいけない。個が集まって全を形成するが、個は全あっての個であって、個あっての全ではない」は、彼の経営理念を端的に表しています。これは、個人の能力を尊重しつつ、組織全体の調和と発展を目指す彼の考え方を示しています。

1959年には社長の座を瀬川美能留に譲り会長に就任。1968年には相談役に退任した後も、経済界への影響力は衰えることはありませんでした。東京証券取引所理事や経済団体連合会外資問題委員会委員長、ボーイスカウト日本連盟理事長など要職を歴任し、石坂泰三経団連会長と共に資本自由化促進の旗振り役として活躍しました。

奥村綱雄は、単なる企業経営者としてだけでなく、日本の資本市場の発展に貢献した、時代の先駆者として歴史に名を残す人物です。彼の生涯と業績は、現代の経営者にとっても貴重な教訓と示唆に富むものと言えるでしょう。彼の著作である『株式』『株式投資の手引』『僕のダイヤモンド経営』『私の履歴書』『わが半生涯』などには、その経営哲学や人生観が詳細に記されています。これらの文献は、彼の考え方を理解し、現代社会の課題を考える上で重要な資料となるでしょう。彼の活動は、単に野村證券のみに留まらず、日本の経済発展に大きく寄与したと評価できます。奥村綱雄という、昭和を代表する実業家の生涯は、現代の日本経済を考える上で重要な意味を持つと言えるでしょう。

もう一度検索