女学雑誌

女学雑誌：日本初の女性誌とその波乱の軌跡

1885年（明治18年）7月の創刊から1904年（明治37年）2月の終刊まで、約20年間にわたり日本の女性誌の礎を築いた『女学雑誌』。526号、計548冊という膨大な数の発行部数を誇り、その内容は時代とともに変遷を遂げました。本稿では、『女学雑誌』の歴史、編集者、掲載内容、そしてその社会的な影響について詳細に探ります。

創刊と揺れる編集体制

近藤賢三を初代編集者として誕生した『女学雑誌』は、「女性の地位向上・権利伸張・幸福増進のための学問」という理念を掲げ、その創刊号では女性の進歩への強い意志が表明されました。しかし、翌年に近藤が急逝。その後を継いだのは、近藤の後輩にあたる巌本善治です。巌本は、雑誌の編集方針を大きく変えていきます。

初期は20ページほどの小冊子でしたが、発行部数が増加するにつれ、ページ数も増え、判型も変更されました。発行元も変遷し、拠点も本郷、京橋、麹町と移転を繰り返しながらも、その人気は衰えを知りませんでした。男性読者も多かったという記録も残っています。

啓蒙から文芸へ：内容の変容

初期の『女学雑誌』は、啓蒙的な内容が中心でした。内村鑑三、植村正久といった著名な知識人たちの寄稿に加え、巌本自身も数々の論文を発表。一方、中島湘煙や山田美妙といった作家による文学作品も掲載されていました。

しかし、1889年後半からは、文芸作品が大きく増加。特に、巌本と結婚した若松賤子が数多くの翻訳や創作を発表し、清水豊子、田辺花圃、北村透谷といった作家も参加するようになりました。これにより、『女学雑誌』は啓蒙主義的な側面からロマン主義的な文芸誌へと大きく舵を切り始めます。若松賤子の作品『小公子』などは、現在でも高く評価されています。

組織化と分裂：隆盛と衰退

1890年には、巌本が編集体制を刷新。清水豊子らを主筆に迎え、家政、救急手当、相場情報など、幅広い記事を取り入れるようになりました。さらに、雑誌を「甲の巻」（文芸）と「乙の巻」（女学）に分け、交互に発行するという試みも行われました。この「白おもて」「赤おもて」と呼ばれた二つのシリーズは、後に統合されますが、この編集方針の変化は、当時の社会情勢を反映していると言えるでしょう。

しかし、日清戦争を機に雑誌業界の整理が進み、『女学雑誌』も例外ではありませんでした。この時期には、星野天知、戸川秋骨といった作家が『文学界』を創刊し、『女学雑誌』から離れていきます。北村透谷の自殺、若松賤子の病気など、不幸も重なり、雑誌は徐々に勢いを失っていきます。

没収と終刊：時代の終わり

1900年、田中正造の『鉱毒文学』掲載を理由に雑誌が没収され、巌本は告訴されるという事態に発展。その後、『女学雑誌』の発行は不定期となり、1902年には全く発行されませんでした。1903年には青柳有美が編集を引き継ぎますが、日露戦争勃発の1904年2月、526号をもって終刊となりました。

『女学雑誌』は、約20年にわたる歴史の中で、日本の女性の進歩に貢献しました。その変遷は、時代の流れ、女性の意識の変化、そして文学界の動向を反映しており、日本の近代史を理解する上で貴重な資料となっています。その後も復刻版が発行されるなど、その影響は現代まで続いています。

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