女房奉書

女房奉書：天皇の意向を伝える女官の手紙

女房奉書とは、天皇や上皇の意思を女官（女房）が仮名で書き記した文書です。現代で言うところの、天皇からの伝言メモのようなものでしょうか。正式な文書ではなく、天皇の意向を伝えるための、いわば非公式な連絡手段として用いられていました。

その起源は平安時代まで遡る可能性も示唆されています。平安時代の文献には、女官が天皇の意思を伝える場面が描写されており、女房奉書がその起源を辿る手がかりとなるかもしれません。しかしながら、現存する最古の女房奉書は鎌倉時代中期（1263年）のものであり、確実な存在が確認できるのは鎌倉時代以降です。

鎌倉時代には、天皇や上皇の意向を朝廷に伝える「伝奏」という役職がありました。しかし、伝奏は常に宮中にいるわけではありませんでした。そこで、伝奏が不在の際に、女官が天皇や上皇の言葉を伝え、伝奏に託すために用いられたのが女房奉書です。

伝奏は、受け取った女房奉書の裏に受領の印として日付などを書き込み、それを元に正式な文書を作成して、勅旨の相手方に送りました。後に、女房奉書が伝奏を経ずに直接相手方に送られるケースも出てきました。

天皇の意向を非公式に伝える方法としては、綸旨などもありました。しかし、鎌倉時代に入ると綸旨は次第に公文書としての性格が強くなっていったため、女房奉書は、綸旨に代わる非公式な連絡手段として、その重要性を増していったと考えられます。

室町時代になると、室町幕府（足利将軍家）が朝廷の実権を握るようになります。伝奏は、本来天皇や上皇に仕える役職でしたが、室町幕府に仕えるようになり、天皇は女房奉書を通じて、自らの政治的意思を幕府に伝える手段として利用しました。

女房奉書の執筆は、原則として後宮の事務を取り仕切る「勾当内侍」が行いましたが、相手や内容によっては、それより地位の高い典侍が執筆することもありました。戦国時代以降には、女房の筆を模した天皇の直筆による女房奉書も作成されるようになりました。

しかし、女房奉書はあくまでも非公式な文書です。戦国時代の朝廷では、より正式な文書である太政官符や官宣旨などが作成される状況であれば、それらが優先的に用いられました。

女房奉書の様式は、本紙と礼紙の二枚からなるものが一般的でした。草書体の仮名、もしくは仮名交じりの文章で、雁行書という書き方で書かれていました。文章の終わりは「と申とて候、かしく（と申し伝えよと言うことです、かしこ）」のような表現で締めくくられていました。紙の使い方などは、私的な手紙である書札様文書に近かったものの、差出人や宛名、日付などが書かれていない点が特徴です。ただし、室町時代以降には、宛名が記された女房奉書も見られます。

女房奉書は、一見すると簡素な文書に見えますが、その歴史と役割を知ることで、平安時代から戦国時代までの朝廷の政治や社会構造を理解するための貴重な史料であると言えるでしょう。

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