女王陛下のユリシーズ号

『女王陛下のユリシーズ号』

アリステア・マクリーンによる1955年発表の海洋冒険小説『女王陛下のユリシーズ号』は、作家のデビュー作として本作が強く印象に残る理由の一つです。本作は第二次世界大戦時、架空の輸送船団FR77がソ連に援助物資を送り込む中で英国の巡洋艦「ユリシーズ」が果たす護衛任務を描いています。この物語は、狂 turbulentな海と敵の潜水艦や爆撃機の攻撃が複雑に絡み合い、乗組員たちの人間模様がさらに深いドラマを形成しています。

物語のあらすじ

1942年、イギリス海軍の巡洋艦「ユリシーズ」はスカパ・フローにて、FR77の護衛部隊の旗艦として任務を受けることになります。しかし、艦も人も疲労が蓄積し、乗組員の一部が反乱を起こしてしまうという混乱に陥っています。司令部はこの騒動を不問にする代わりに、ユリシーズに護衛任務を強行することを決定します。

ユリシーズは、厳寒と大波に挑みながら、遠いムルマンスクを目指すことに決します。彼らが直面するのは、ドイツ軍の精鋭にあたる潜水艦と爆撃機の攻撃、さらにはドイツの大戦艦ティルピッツの恐怖です。艦上では様々な人物たちが、それぞれの役割を持ちながら、命を賭けた護衛任務に邁進します。

主な登場人物

物語には多くの個性的なキャラクターが登場します。艦隊司令官ティンドル少将は短気ながらもその指揮力を発揮しますが、やや高齢です。艦長のヴァレリー大佐は剛毅で不屈な意志を持っていますが、健康問題にも悩まされています。彼の艦長としての真摯な姿勢は、疾患との戦いを続けながらも艦に尽力します。副長のターナー中佐は、情熱的に艦を支える立場を担っています。

さらにブルックス軍医中佐が艦長の健康を気遣い、キャリントン先任少佐は冷静沈着な姿勢でチームをまとめます。若干無能なカースレイク中尉と対照的に、冷静なラルストン上等水雷兵は、戦場での経験をものにしつつあります。

ユリシーズという艦

小説に登場する「ユリシーズ」は架空の巡洋艦ですが、特異な設計がなされています。この艦はダイドー級とベローナ級の中間に位置し、従来の艦艇に比べて速力とレーダー設備が優れています。公試では39.2ノットの速度を記録するなど、他艦と比べても一線を画す存在です。捕虜艦としての役割に加えて、商船の護衛任務に多く参加し、その活躍のために神話的存在にもなっています。

評価と影響

本作は日本においても非常に高く評価されており、いくつかの雑誌による人気投票でも高得点を獲得しています。アリステア・マクリーンの魅力的な描写と、厳しい戦闘の中で描かれる人間ドラマが、多くの読者に愛されている所以です。『女王陛下のユリシーズ号』はただの海洋冒険小説にとどまらず、戦争の真実と人間の精神の営みを浮き彫りにする作品となっています。

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