妖怪 (司馬遼太郎)

妖怪

『妖怪』（ようかい）は、日本の著名な作家司馬遼太郎による長編小説で、1967年7月から1968年4月まで『読売新聞』に連載され、その後、1969年に講談社から出版されました。この作品は、室町時代後期、特に足利義政の時代を舞台にしています。当時、人々は妖怪が実在すると信じており、その混乱した社会情勢を描写しています。これは、司馬にとって幻術をテーマにした最後の小説です。

あらすじ

物語の主人公である源四郎は、熊野の地で亡き母から室町幕府の第六代将軍、足利義教の落胤として育てられます。彼は将軍になる機会を得るために京都に向かうことを決意しますが、同時に彼の人生は陰謀や幻術に満ちたものとなります。八代将軍義政の妻である日野富子は男児を授かっておらず、源四郎は彼女の兄の日野勝光に呼ばれ、彼の食客となります。

富子は、義政の側室である今参局（お今）との関係を巡り、源四郎にお今の拉致を命じます。しかし、源四郎はお今に憑依している唐天子という強力な幻術師の術にかかり、任務に失敗します。その後、源四郎は日野家を去り、剣術の修行や盗賊団の首領として生活を送ります。

物語は、彼が富子とお今に何度も関わる中で、唐天子によって翻弄される様子を描いています。そして、富子は義政の子を流産した際、この出来事を利用してお今が関与したとされる呪術の冤罪を着せて彼女を失脚させます。しかし、皮肉なことにその後も政治情勢は不安定で、最終的には応仁の乱へとつながります。

批評

この作品に対する批評は様々です。梅原猛は「司馬遼太郎と国民文学の再生」の中で、本作を失敗作として批判しています。一方海音寺潮五郎は、読売新聞の書評で本作を好意的に取り上げ、司馬を励まそうと試みました。彼はこの小説をおもしろく読んでもらえるかどうか、疑問を抱いていました。

備考

物語には源四郎の盟友が「印地」の大将となる描写がありますが、ここでの印地はやくざ者の集まりを指しています。また、お今は歴史的には少年の義政に初めにあてがわれた側室とされていますが、近年の研究では、乳母という位置づけが主流となっています。物語中ではお今が配流地で殺されることになりますが、実際の史実では配流中に刺客によって自害に追い込まれたとされています。

日野富子については、作品中では彼女の能力を持て余した気ままで勝ち気な一面が描かれていますが、近年の研究では幕府の財政を支えた重要な人物とする意見も多く、彼女の蓄財がその一環と考えられている点がとても興味深いです。

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