日野富子

日野富子：室町幕府を揺るがせた御台所

日野富子（ひの とみこ）は、室町時代後期に生きた女性で、室町幕府8代将軍・足利義政の正室（御台所）として知られています。彼女は、その激動の時代を生き抜き、政治と経済の両面で幕府に大きな影響を与えました。

生い立ちと結婚

永享12年（1440年）、日野重政の娘として生まれた富子は、室町幕府の足利将軍家と縁戚関係にある日野家の出身でした。康正元年（1455年）に、16歳で義政の正室となり、将軍家の御台所としての人生を歩み始めました。しかし、結婚生活は平穏なものではありませんでした。長禄3年（1459年）には第一子となる男児を出産しますが、その子はすぐに亡くなってしまいます。その後、側室との間に生まれた子たちの存在も、富子の立場を複雑なものにしました。

応仁の乱と富子の暗躍

富子の人生を語る上で欠かせないのが、応仁の乱です。寛正5年（1464年）、義政が異母弟の義視を後継者としたことに反発した富子は、実子である義尚の擁立を目論み、山名宗全や実家の日野家と連携して義視と対立しました。この対立が、応仁の乱勃発の一因となったとされていましたが、近年ではこの説は虚構であるという見方も出ています。

応仁の乱中、富子は東軍に味方しましたが、単なる将軍の妻としてだけではなく、経済的な側面でも大きな役割を果たしました。東西両軍の大名に多額の金銭を貸し付け、米の投機を行うなどして、巨万の富を築いたと伝えられています。その資産は、現在の価値にして60億円にも達するとも言われています。

また、戦乱の最中には、室町亭に避難していた後土御門天皇との密通の噂も流れました。これは、天皇が富子の侍女に手を付けたことが原因でしたが、夫婦関係の冷え切っていた富子と義政の間柄を象徴する出来事でした。

幕府の実力者として

応仁の乱後、将軍家は衰退の一途を辿り、義政は政治への関心を失い、隠居生活を送るようになります。文明8年（1476年）に兄の勝光が亡くなると、富子が事実上の幕府の指導者となり、「御台一天御計い」とまで言われるほどになりました。富子の権勢は、八朔の進物を届ける人々の行列が1、2町にも達したことからも伺えます。

しかし、富子の権力は必ずしも民衆から支持されたものではありませんでした。京都七口に関所を設置して関銭を徴収した際、そのほとんどを私腹を肥やしたことが民衆の怒りを買い、徳政一揆を引き起こす原因となりました。この一揆により関所は破壊され、富子は民衆だけでなく公家からも恨みを買うことになりました。

息子である義尚が将軍となると、富子を疎んじるようになり、一時的に富子は権力を失います。しかし、義尚の急死後、再び富子は幕府に影響力を持つようになります。富子は、義政との協議の末、義視と自分の妹良子の間に生まれた義材（後の義稙）を将軍に擁立します。義政の死後、義材が10代将軍となりますが、その権力をめぐり、後見人の義視と富子との間で争いが起こり、富子の邸宅が破却される事態にまで発展しました。

明応2年（1493年）には、細川政元とともにクーデターを起こし、義材を廃して義澄を11代将軍に擁立しました。この明応の政変によって、富子の政治力は再び示されることとなりました。

その人物像

富子は、その生涯を通じて「悪女」「守銭奴」と評されるなど、庶民からの評価は決して高くありませんでした。しかし、その一方で、火災で焼失した朝廷の御所の修復費用を自身の蓄財から賄ったり、学問にも熱心で関白の一条兼良から『源氏物語』の講義を受けていたりと、多面的な人物であったことも事実です。また、幕府財政が贈答儀礼や手数料収入などに頼るようになっていた時代において、富子の蓄財もその文脈で考える必要があるとも指摘されています。

彼女の遺産は7万貫（約70億円）にも達したと言われています。その莫大な財力と政治力を駆使し、室町幕府を翻弄した日野富子の生涯は、日本の歴史において、特異な輝きを放っています。

晩年と死

明応5年（1496年）、富子は京都で亡くなりました。享年57歳でした。その墓は、京都市上京区の華開院にあります。

日野富子は、激動の室町時代後期を生き抜き、その時代に大きな足跡を残した女性でした。彼女の生涯は、多くの人々の心を惹きつけ、小説やドラマ、漫画など、様々な形で語り継がれています。彼女の生き方は、歴史を考察する上で、現代にも多くの示唆を与えてくれるでしょう。

もう一度検索