妻鹿田新助

妻鹿田新助。戦国時代を生きた、謎多き武将の一人です。上杉憲政という関東管領に仕えたと伝えられていますが、その生涯は多くの謎に包まれています。まず氏名からして諸説あり、妻方、目方、目加田、目賀田など、複数の表記が見られます。名前についても新助と新介の二説があり、確かな情報は断片的です。

新助の出自については、近江国六角氏に仕えた目賀田氏という説が有力視されています。これは、彼と親族関係にあった九里氏の系譜から推測されたものです。しかしながら、詳細な家系図が残されているわけではなく、あくまで推測の域を出ません。

歴史の表舞台に現れるのは、天文20年（1551年）の上野国侵攻戦です。この時、新助は上杉憲政と共に、北条氏康率いる北条軍と激しい戦いを繰り広げました。北条氏の勢力拡大を阻止しようと、必死に抵抗したのです。しかし翌天文21年（1552年）、上杉憲政は平井城を放棄し、越後国へと逃亡を余儀なくされます。

憲政の逃亡後も、新助は上杉家の嫡男である龍若丸と共に、御嶽城に籠城して抵抗を続けました。しかし、劣勢は否めず、やがて決断を迫られることとなります。新助は妻や弟、そして伯父である九里采女正らと相談し、究極の選択を下しました。それは、龍若丸を北条氏康に差し出すという、あまりにも残酷な決断です。

龍若丸の身柄を引き渡すことで、自らの命と一族の安泰を図ろうとしたのです。しかし、この行為は裏切りの烙印を押されることになり、龍若丸は殺害されました。そして新助自身も、氏康から不義を咎められ、命を落としました。彼の最期は、歴史の闇に葬られるかたちとなりました。

数々の謎と悲劇に彩られた妻鹿田新助の生涯。記録の断片を繋ぎ合わせながら、私たちは戦国時代の混沌とした状況、そしてそこに生きた人々の苦悩を垣間見ることができます。彼の選択は正しかったのか、それとも間違っていたのか。それは今もなお、議論の余地を残す問いかけです。NHK大河ドラマ『風林火山』では、田中実氏が新助を演じています。ドラマを通して、この複雑な人物像に改めて触れてみるのも良いでしょう。ドラマでの描写と史実を比較検討することで、より深く妻鹿田新助の生涯を理解できるかもしれません。

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