姑獲鳥の夏

『姑獲鳥の夏』

『姑獲鳥の夏』（うぶめのなつ）は、日本の作家・京極夏彦による長編推理小説であり、彼の代表作のひとつです。この作品は京極夏彦の将来を見据えたデビュー作品であり、百鬼夜行シリーズの第1弾でもあります。初めてこの小説が講談社に持ち込まれたことがきっかけとなり、以後、メフィスト賞の創設へとつながりました。

1994年9月には新書判として出版され、1998年9月には文庫版も登場しました。さらに、2005年4月には分冊文庫版が発売され、2013年にはマンガ化されるという形で物語が新たな観客層にアプローチしました。特に2005年に実相寺昭雄の監督による映画化もされ、堤真一や原田知世などが出演するなど話題を呼びました。

あらすじ

物語は、関口巽が懐かしい友人の中禅寺秋彦の家を訪れるシーンから始まります。梅雨が過ぎようとする夏の日、彼は奇妙な噂が立ち始めている久遠寺家に関心を抱き、京極堂に相談を持ちかけます。

その噂とは二十か月間も妊娠が続く久遠寺梗子の状況や、連続して起きた嬰児の死、および家にまつわる呪いの伝説です。特に関口が京極堂に尋ねた「二十か月も子供を身籠ることが可能か」という問いに対し、京極堂は「この世には不思議なことなど何もない」という言葉で返します。この場面から物語は徐々に深刻な展開を見せ、久遠寺家の闇や失踪事件の真相を明らかにするために、京極堂や榎木津礼二郎などのキャラクターが巻き込まれていくことになります。

登場人物

中禅寺秋彦

京極堂とも呼ばれる陰陽師であり古本屋を営む。博学で、他人の運命を知る能力を持つ。

関口巽

小説家で、過去にうつ病を患っている。彼の疑問が物語の発端となる。

榎木津礼二郎

破天荒な私立探偵で、特殊な能力を活かして関口や京極堂と共に事件に挑む。

中禅寺敦子

京極堂の妹で、編集記者。兄と共に事件を追う役割を担う。

木場修太郎

警察に所属する刑事で、関口や榎木津と関係のあるキャラクター。

物語は久遠寺産科医院という謎めいた場所を中心に展開し、久遠寺家が抱える複雑な背景や異なる人間関係が次々と交錯します。特に久遠寺家の家族構成は物語において重要な役割を果たしています。

久遠寺家の家族

久遠寺涼子と梗子は姉妹であり、涼子は病弱で子供は持てないと言われています。一方、梗子は夫の失踪と共に謎の妊娠状態が続いていることが物語の重要な要素となります。久遠寺を取り巻く不幸な出来事は、彼らの家系にまつわる呪いや過去の事件に起因しています。

物語は、関口と京極堂がこれらの謎を解き明かしていく過程を描きながら、心の闇や人間関係の複雑さを浮き彫りにします。京極堂の言葉が示すように、不思議な現象の背後には人間の心の闇や迷信が存在し、時には疼痛や苦悩から解放されるためには勇気が必要です。この作品は、ただの推理小説に留まらず、人間の意識や未知の領域に関する深い探求でもあるのです。

『姑獲鳥の夏』は、京極夏彦の独特な文体と緻密なプロットにより、読者を魅了し続けています。自粛しがちな社会の中で、彼の作品は我々に考えさせる力を与えてくれます。

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