嫌気的

嫌気的（けんきてき　ドイツ語：anaerob）

「嫌気的」とは、生物がその生命活動を行うにあたり、酸素を必要としない、あるいは酸素が存在しない環境下でのみ可能である状態や性質を指す言葉です。ドイツ語では「anaerob」（アナエロブ）といいます。

嫌気的環境とその形成

このような酸素が極めて少ない、または全く存在しない環境は、実は私たちの身の回りにも多く存在します。例えば、深く湿った土壌の内部、下水処理場で生じる汚泥、あるいは動物の腸内などがこれにあたります。これらの環境では、光合成による酸素供給がほとんどなく、一方で豊富な有機物が微生物によって活発に分解されます。この分解過程で酸素が大量に消費されるため、利用可能な遊離酸素が急速に枯渇し、嫌気的な状態が生まれるのです。水底の泥や、密閉された食品内部なども同様の環境となり得ます。

生物の嫌気的な活動

このような酸素の少ない、あるいは全くない環境に適応した生物は、『嫌気性生物』と呼ばれ、彼らは酸素を用いない独自の代謝経路を進化させてきました。例えば、酸素を使わずに有機物を分解してエネルギーを取り出す『嫌気呼吸』や『発酵』といった生命活動を行います。これらの活動は総じて「嫌気的」であると表現されます。
嫌気性生物の中には、酸素が存在すると生育できない『偏性嫌気性生物』と、酸素があってもなくても生育できる『通性嫌気性生物』が知られています。

生命史における嫌気的環境

地球上の生命の歴史を遡ると、その誕生の舞台は現在の環境とは大きく異なっていました。太古の地球には、大気中に遊離酸素はほとんど存在しなかったと考えられています。そのため、地球に最初の生命が誕生し、その初期の進化を遂げた段階は、まさに嫌気的な条件下で行われたと推測されます。例えば、光合成を行う生物が出現する以前の原始的な生命は、現在の嫌気性生物に近い存在だったと考えられています。その後、光合成を行うシアノバクテリアなどが出現し、酸素を副産物として大気中に放出し始めたことで、徐々に地球環境は酸素に富むように変化し、『好気性生物』と呼ばれる、酸素を利用して効率的にエネルギーを得る生命活動が主流となっていきました。

関連用語

嫌気呼吸
嫌気性生物
通性嫌気性生物
好気性生物

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