子別れ

子別れ

「子別れ」は、初代春風亭柳枝が創作した古典落語の演目です。その後、3代目麗々亭柳橋や4代目柳家小さんらによって洗練され、人情噺の大ネタとして知られるようになりました。別名として「子は鎹」「強飯の女郎買い」などがあります。

あらすじ

この噺は、夫婦別れまでを「上」、花魁を家に入れるまでを「中」、夫婦が元の鞘に収まるまでを「下」とした三部構成で語られます。通常は「中」の後半部分と「下」を合わせて演じられることが多いです。

上

山谷の隠居の葬儀で良い気分になった熊五郎は、吉原へ繰り出そうとします。道中で出会った紙屑屋の長さんを無理やり誘い、葬儀で出された強飯がフンドシに染み込んだと騒ぎながら、3日間も吉原に居座ってしまいます。この部分は「強飯の女郎買い」とも呼ばれ、5代目古今亭志ん生が独自の演出で有名にしました。特に、熊五郎が紙屑屋を吉原に誘う場面での掛け合いが見どころで、熊五郎が「俺は金がある！」と豪語するも、質問を受けるたびに所持金が減り、最終的に「三銭」になってしまう場面は、聴衆の笑いを誘います。

中（後半部分）

神田竪大工町の熊五郎は腕のいい大工ですが、酒好きが災いして、ある日、泥酔して帰宅すると、妻のお光に女郎の惚気話を始め、夫婦喧嘩の末、お光は息子亀を連れて家を出て行ってしまいます。熊五郎は、お光と離婚し女郎を身請けして一緒に暮らすも、女郎は家事をせず酒を飲んで寝てばかり。結局、他の男と出て行ってしまいます。

下

熊五郎は酒を断ち、女郎とも別れて心を入れ替えて懸命に働きます。3年後、熊五郎は仕事で木場へ行く途中、息子亀と再会します。番頭に勧められ、亀と話すと、お光は炭屋の二階に間借りし、仕立ての仕事をしながら亀を育てていることを知ります。熊五郎は亀に小遣いを渡し、明日鰻をご馳走すると約束しますが、お光には会ったことを秘密にするよう言います。しかし、帰宅した亀が小遣いを持っていることをお光に見つかり、誰から貰ったのかを問われると、「知らないおじさんから貰った」と答えます。問い詰めても決して父親から貰ったとは言わない亀に、お光は遂に「トンカチでぶつよ」と脅してしまいます。その言葉に亀は、父親から貰ったことを白状し、熊五郎が真面目に働いていると聞き、お光は喜びます。

翌日、お光は亀を鰻屋に行かせますが、自分も気になり後をつけます。店主に促されて店に入ると、三年ぶりに熊五郎と再会。ぎこちない会話の中、亀の言葉をきっかけに二人は元の鞘に収まります。最後に亀が「子は鎹か。道理でおいらのことトンカチでぶつって言ったんだ」と言う場面で、噺は幕を閉じます。

バリエーション「女の子別れ」

明治初期には、三遊亭圓朝が、柳枝の原作を脚色し、あべこべに母親が出て行って父親が子供と暮らすという「女の子別れ」を演じました。この変更は、「男の子は父親につく」という当時の慣習に基づいたものですが、現在ではほとんど演じられていません。

トリビア

登場人物である亀吉の名前の由来には諸説あり、初代柳枝の幼名から取った説や、3代目柳橋が実の長男である4代目柳橋の本名を採用したという説があります。

この落語は、親子の情愛、夫婦の絆、そして人の心の温かさを描いた、人情味あふれる傑作として、多くの人に愛されています。

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