孝烈皇后

孝烈皇后（こうれつこうごう）は、中国明朝の第11代皇帝、嘉靖帝（かせいてい）の3番目の皇后です。姓は方氏、南直隷江寧（現在の江蘇省南京市）の出身で、庶民の方鋭（ほうえい）の長女として生まれました。

後宮入りと立后

嘉靖10年（1531年）、選抜により後宮に入り、徳嬪（とくひん）の位を与えられました。嘉靖13年（1534年）には、当時の皇后であった張氏（ちょうし）が廃位されたわずか10日後、方氏は皇后に冊立されました。これは異例の速さであり、彼女の才能と人柄が認められていたことを示唆しています。

皇后としての役割

嘉靖21年（1542年）2月、父の方鋭は、娘が皇后である功績により安平侯（あんぺいこう）に封じられました。方皇后は、謙虚で献身的な性格であったと伝えられています。嘉靖帝が後宮に道教儀式を取り入れるようになると、方皇后はこれに従いながら、陰では宮中の不満を抑える役割を担っていました。彼女の存在は、嘉靖帝の奇行によって乱れがちだった宮廷の秩序を保つ上で、重要な役割を果たしました。

壬寅宮変とその後

嘉靖21年10月、後宮で「壬寅宮変（じんいんきゅうへん）」と呼ばれる大事件が起こりました。15人の宮女たちが、就寝中の嘉靖帝を絞殺しようと企てたのです。この時、宮女の一人である張金蓮（ちょうきんれん）が、この計画をいち早く方皇后に密告しました。方皇后はすぐさま嘉靖帝を救出し、宮女たちを捕縛させました。この時、嘉靖帝は危篤状態に陥りましたが、御医・許紳（きょしん）の応急処置により一命を取り留めました。

事件後、宮女たちは謀反の罪で処刑されましたが、その中には冤罪で処刑された曹端妃（そうたんひ）と王寧嬪（おうねいひん）が含まれていました。この二人は嘉靖帝の寵愛を受けており、この事件をきっかけに、嘉靖帝は方皇后に対して複雑な感情を抱くようになりました。

悲劇的な最期

嘉靖26年11月18日（1547年12月29日）、方皇后は崩御しました。彼女の宮殿で大規模な火災が発生し、寝室も炎に包まれましたが、嘉靖帝は太監（宦官）たちの助命嘆願にも関わらず、燃え盛る宮殿を静かに眺め、「彼女（方皇后）はかつて私の命を救ったが、私は彼女を救うことはしない」と呟いたと伝えられています。この言葉からは、嘉靖帝の方皇后に対する複雑な感情、そして、壬寅宮変が二人の関係に深い溝を作ったことがうかがえます。

死後の評価

方皇后には、孝烈皇后（こうれつこうごう）の諡号が贈られました。嘉靖帝は、彼女が自らの命を救った恩に報いるため、元配（最初の正妻）の礼で葬りました。これにより、本来最初の皇后であった陳氏（ちんし、孝潔皇后）は、後妻の扱いを受けることになりました。

しかし、嘉靖帝の崩御後、隆慶帝（りゅうけいてい）が即位すると、孝潔皇后が廃位されたわけではないとの理由から、孝烈皇后は後妻に降格されました。これは、嘉靖帝の死後、彼の皇后の扱いが大きく変化したことを示しています。

孝烈皇后は、その謙虚さと献身的な性格で、後宮をまとめ、嘉靖帝の命を救うなど、重要な役割を果たしました。しかし、悲劇的な最期を迎え、死後もその評価が変動した、複雑な運命をたどった皇后でした。

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