学生セツルメント

学生セツルメントとは

学生セツルメントは、大学生が主体となり、貧困地域での生活支援や教育活動を行う社会運動です。その起源は19世紀後半のイギリスに遡り、その後、世界各地に広がりました。

欧米におけるセツルメント運動

セツルメント運動は、1870年代にイギリスのケンブリッジ大学やオックスフォード大学の学生たちが、貧困層が多く住む地域に住み込み、生活の向上を目指したのが始まりとされています。彼らは、貧民街で隣保館（セツルメント）を拠点に、医療相談や法律相談、学校に通えない子供たちへの教育といった活動を行いました。産業革命後のスラム街の出現や社会問題の深刻化を背景に、制度的な対応だけではなく、地域社会の改善を目指す運動として発展しました。アメリカではシカゴを中心に展開され、人種問題や移民問題の解決にも取り組みました。

日本における学生セツルメント

戦前

日本には大正時代にセツルメント運動が紹介され、東京帝国大学の学生を中心に活動が始まりました。当初は、貧困層への支援活動が中心でしたが、セツラー（セツルメント運動に参加する学生）たちは、地域の人々との交流を深め、親睦を深めました。1930年には、京都帝国大学でも学生隣保館が設立されました。

戦後

太平洋戦争後、学生セツルメント運動は、日本共産党系の学生が中心となり、全国学生セツルメント連合（全セツ連）が結成されました。この時期の運動は、地域社会での活動に加え、学生を「民主的知識人勤労者」として育成する場としての側面も持ちました。1960年には朝日新聞社会面で「全国学生セツルメント連合大会始まる」という記事が掲載され、学生セツルメントへの関心の高さが伺えます。しかし、高度経済成長が進むにつれて貧困層が減少し、運動の存在意義が薄れていきました。

全セツ連は、学生が地域に貢献するだけでなく、大学での学びが社会にどう役立つのかを考える場、自己成長の場として再定義し、一定の学生を引き付けることに成功しました。しかし、1980年代半ばになると、学生セツルメント運動は急速に衰退し、医療相談や法律相談などの活動がなくなり、教育事業のみが残るようになりました。学生セツルメントの老舗であった亀有セツルメントも1987年に活動を停止しました。

1980年代

衰退する学生セツルメント運動の中で、京都学生セツルメント連合（京セツ連）は1985年に「85京都テーゼ」を提唱しました。このテーゼには、学生セツルメント運動の理念と活動方針である「地域実践活動」「学習調査活動」「国民のたたかいの一翼として～要求実現運動」の3本柱が示されました。全国の学生セツルメント運動がボランティアサークル化する中で、京セツ連（立命館大学「つくしんぼセツルメント」と佛教大学「鴨川セツルメント」）のみが1960年代からの流れを受け継ぎ活動を続けていました。

1990年代

しかし、サークル内で特定の政党や関連団体との関係が問題視されるようになり、「85京都テーゼ」の柱の一つである「要求実現運動」が、学生の要求と一致しないという問題も生じました。1990年代中盤には「要求実現運動」のあり方を再考する提言がなされ、2000年までに「85京都テーゼ」はその役目を終え、京セツ連もまた全国の学生セツルメントの流れを受け、ボランティアサークルへと変容しました。

京セツ連が学生セツルメント運動の「最後の砦」となった背景には、京都という学生運動が盛んな土地柄に加え、活動の基盤とした地域が在日韓国人地区や同和地区といった貧困地域であったという事情がありました。

一方、全国学生セツルメント連合（全セツ連）は1988年に解散を宣言し、ボランティアサークルとしての道を歩み始めましたが、全国の有志によって連帯を継続する動きも起こり、1990年から2005年にかけて、各地で学生セツルメント集会が開催されました。

2000年代以降

2000年代以降、学生セツルメントは全国各地の大学で、学生サークルとして地域ボランティア活動を続けています。2001年には、北海道から大阪まで、多くの大学でセツルメント活動が行われていました。これらの活動は、学生たちが地域社会に貢献しながら、自己成長を遂げる場となっています。

まとめ

学生セツルメント運動は、欧米で生まれ、日本にも導入され、社会情勢の変化とともにその姿を変えてきました。当初は貧困救済を目的とした活動でしたが、学生運動との関わりや、社会の変化の中で、学生の自己成長の場としても重要視されるようになりました。現代においても、学生たちが地域社会と関わり、社会貢献を学ぶ場として、その意義は失われていません。

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