学生研究会土曜会

学生研究会土曜会（がくせいけんきゅうかいどようかい）は、戦後間もない1950年に、東京大学法学部の学生有志によって立ち上げられた読書会です。その活動は1970年代頃まで続き、当時の日本の政治、社会、思想に大きな影響を与えたとされます。

設立とその背景

土曜会が設立された1950年代は、日本が第二次世界大戦の敗戦から立ち直り、サンフランシスコ講和条約の締結を経て主権を回復しつつある激動期でした。占領期が終わりを迎え、日本が進むべき道を模索する中で、東京大学法学部の学生たちは、読書会を通じて深く議論を交わす場を求めました。彼らは、当時の左派的な学生運動や急進的な社会変革論とは一線を画し、既存の体制を内部から改革することで、真の意味での独立国家を築くことを目標としていました。この「体制内改革」という穏健かつ現実的なアプローチが、土曜会の思想的基盤となりました。

活動内容と外部との連携

土曜会の主要な活動は、内外の古典や現代思想、政治、経済に関する文献を読み、参加者間で徹底的に討論を行う読書会でした。こうした知的な営みを通じて、学生たちは自らの思想を練り上げ、社会に対する問題意識を共有しました。

設立当初から、土曜会は外部との交流を深めました。特に1952年から1954年にかけては、当時の元首相であった芦田均氏と活発に交流し、資金的な支援も受けていました。さらに、内閣総理大臣官房調査室、通称「内調」からも援助を得ていたことは特筆されます。これらの支援は、土曜会の活動を支える重要な基盤となりました。こうした外部からのサポートは、土曜会が単なる学生サークルに留まらず、将来のリーダーを育成する機関として見られていた可能性を示唆しています。

活動の一環として、1952年には機関誌『時代』が創刊されました。この機関誌は、土曜会のメンバーの論文や論説を発表する場となり、彼らの思想を広く発信する役割を果たしました。初代編集長を務めたのは、後に著名な言論人となる粕谷一希氏です。

土曜会が社会的に影響力を行使した具体例として、1952年にNHKラジオで放送された討論会「非武装中立は是か非か」が挙げられます。この討論会に外務省の曽野明情報文化局第一課長が出席するにあたり、内調の志垣民郎氏を通じて佐々淳行氏が学生の動員を依頼されました。これに応じた土曜会のメンバー、特に国際政治学者として知られる若泉敬氏らが、会場のフロアから非武装中立論に対して活発な反論を展開し、議論を深めました。これは、土曜会が単なる学術的な集まりではなく、現実の政治・社会問題にも積極的に関与していたことを示すエピソードです。

安保闘争におけるスタンス

激動の1960年、日米安全保障条約改定を巡る安保闘争が全国で巻き起こりました。東京大学の自治会も全学連主流派の指導のもと、改定反対運動を展開しましたが、土曜会はこれとは一線を画しました。彼らは、急進的な運動ではなく、既存の体制内部からの改革を通じて、真に独立した国家を築くことを目標に掲げ、独自の活動を続けました。この時期における彼らの立場は、当時の学生運動が二極化する中で、「体制内改革派」としての土曜会の独自性を際立たせています。

人材輩出

土曜会の活動からは、戦後日本の各界で重要な役割を担う人材が数多く輩出されました。具体的には、国際政治学者として知られる若泉敬氏、後に警察官僚、危機管理の専門家となる佐々淳行氏、言論人の粕谷一希氏、外交官として外務事務次官を務めた谷内正太郎氏、さらには矢崎新二氏、岩崎寛弥氏、福留民夫氏、池田富士夫氏、江藤作平氏、松岡滿壽男氏といった人々がいます。彼らは、官界、政界、言論界、学界、さらには大手企業の幹部に至るまで、多岐にわたる分野で活躍しました。土曜会は、彼らが若き日に知的鍛錬を積み、社会への関心と問題意識を育む重要な育成機関としての役割を果たしたと言えるでしょう。

社会人組織への継続

学生による土曜会の活動が続く中、1960年8月には、卒業生ら社会人となったOB・OGを中心に「有志の会」が結成されました。これは、学生時代の志を社会に出てからも継承し、相互の連携を保つための組織であったと考えられます。

まとめ

学生研究会土曜会は、戦後の混乱期に東京大学の学生たちが自発的に設立した読書会でありながら、単なる学術的な集まりに留まらず、当時の有力者や政府機関との連携を持ち、現実の政治や社会に対しても影響力を行使しました。急進的な運動とは異なる「体制内改革」という独自の路線を歩み、日本の将来を担う多くの優秀な人材を輩出したことは、戦後日本のエリート形成史において特筆すべき存在であったと言えます。その活動は、当時の学生たちが抱いた理想と現実の間での葛藤、そしてより良い社会の実現に向けた真摯な探求の軌跡を示しています。

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