孫瑋

孫瑋（そん い）の生涯

孫瑋は、明代に活躍した官僚であり、字を純玉と称しました。彼の生涯は、不正を正し、民を救うために尽力した一方で、政争の波に翻弄されたものでした。

初期の官僚生活

孫瑋は、1577年（万暦5年）に進士に及第し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。初めは行人に任じられましたが、その才能を認められ、すぐに兵科給事中に抜擢されます。この頃から、彼はその正義感と勇気を発揮し始めます。

1582年（万暦10年）には、宦官の魏朝と東廠弁事官の鄭如金という、当時権勢を誇っていた人物たちの罪を弾劾しました。特に鄭如金は、皇帝の側近である馮保の腹心であったため、この弾劾は大きな波紋を呼びました。孫瑋の勇敢な行動は、腐敗した権力に立ち向かう姿勢を示し、人々から称賛されました。

さらに、右副都御史の労堪が洪朝選を獄死させた事件では、労堪の罪を追及し、免官に追い込みました。この事件は、当時の官僚社会の腐敗を象徴する出来事であり、孫瑋の行動は、不正を許さない強い意志を示しました。

万暦帝は、罪人を立たせたまま死に至らしめる立枷という刑罰を好んで用いていました。孫瑋は、この刑罰が非人道的であることを訴えましたが、聞き入れられませんでした。その後、母の病を理由に無断で帰郷したことで罪に問われ、桃源県主簿に左遷されるという不遇を経験しました。

中央官僚としての活躍

左遷から数年後、孫瑋は再び中央の舞台に戻ってきます。1597年（万暦25年）には太僕寺少卿に任じられ、その後も太常寺少卿、光禄寺卿、順天府尹と、重要な役職を歴任します。1601年（万暦29年）には再び太常寺卿となり、その手腕を発揮しました。

1602年（万暦30年）には、右副都御史として保定巡撫を任され、地方行政を担当しました。前任者が行った治水事業や開墾事業を引き継ぎ、旱魃、蝗害、洪水といった災害に見舞われた地域で、被災者の救済に尽力しました。また、鉱税の弊害を訴え、天津税使の不正を糾弾しましたが、残念ながらこれらの訴えは聞き入れられませんでした。

兵部尚書への道

1608年（万暦36年）には、兵部右侍郎・右僉都御史から右都御史・戸部右侍郎へと昇進し、倉場を総督する任を担いました。さらに、署都察院事を兼任し、総督倉場のまま戸部尚書にまで昇り詰めました。当時、高級官僚に欠員が多かったため、軍政の代行も命じられるという異例の事態となりました。1611年（万暦39年）には、総督倉場のまま兵部尚書に進み、1612年（万暦40年）には、総督倉場のまま署兵部を兼任し、最終的に兵部尚書・掌左都御史事という要職に就任しました。

政争と失脚、そして名誉回復

しかし、孫瑋の栄光は長く続きませんでした。南畿巡按御史の荊養喬と提学御史の熊廷弼が互いを弾劾し合った際、孫瑋は熊廷弼の解職を提議しました。これが原因で、熊廷弼の仲間である官応震や呉亮嗣らから激しい攻撃を受けることになります。孫瑋は引退を願い出ますが、万暦帝に慰留されます。それでも、1613年（万暦41年）には自ら辞職し、官界を去りました。

数年後、孫瑋は再び政界に復帰します。1621年（天啓元年）には、南京吏部尚書として起用され、その後南京兵部尚書に転じ、機密事項にも関与しました。1623年（天啓3年）には、北京に召還され刑部尚書に任じられました。当時、獄中の囚人が溢れかえっていたため、孫瑋は囚人を周辺の州県に分散して収容することを提案しました。また、宦官の王文進が殺人事件を起こした際には、一つの事件を二つの部署で裁くのは不合理であるとして、王文進を法司に下すよう主張しましたが、聞き入れられませんでした。その後、吏部尚書・掌左都御史事に転じますが、老病を理由に辞退を重ねました。1624年（天啓4年）に病没し、太子太保の位を追贈されました。

しかし、孫瑋の死後、政界はさらに混乱します。魏忠賢が政権を掌握すると、陝西巡撫の喬応甲が孫瑋を李三才や趙南星の党与として弾劾しました。これにより、孫瑋は生前の官位を剥奪されるという屈辱を受けました。しかし、1628年（崇禎元年）には、その名誉は回復され、失われた官位も戻されました。諡は荘毅と贈られました。

孫瑋の生涯は、正義感と勇気を持って不正に立ち向かい、民のために尽力した官僚の典型であり、後世に大きな影響を与えました。

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